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福翁自伝/福沢諭吉

 福沢諭吉が偉人扱いされるのは、本人も(暗に)認めるように、時代背景があったからだろう。世が世なら「口舌の徒」とされるような人物だ。
 彼は「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」というフレーズで有名だが、実際のところ政治的な発言も多い。それでいて自らは政治の世界には入らず、一貫して部外者としての発言に終始している。その理由についても「自伝」で言及しているわけだが、彼自身の中での説明にはなっていても、他者を納得させられるかどうかは微妙だ。まあ「うまくやったな」というのが私の印象だ。

 福沢諭吉の仕事の意義は「西洋の文物をいち早く日本に紹介した」ということで、その中には政治制度やら思想やらも含まれるのだが、彼を評するのならば「目端の利く人」なのだろう。オランダ語から英語への転進を自賛していることから、本人もそれを成功のカギだと認識していると思う。慶応義塾を創設した教育者としての面もあるわけだが、この「自伝」を読む限り、それについては軽い扱いで、副業っぽい印象を受ける。
 現代に置き換えて考えてみると「ヒトヤマ当てたルポライター」というイメージで、だからこそ『福翁自伝』は面白い。古い制度に不満タラタラのハネッカエリ者が、行きたがる人の少ない場所へ冒険し、そこでの見聞をもとに旧制度批判の本を書き、祭り上げられる。庶民のためのビルディングス・ロマンだ。明治の『太閤記』だ。
 偉人伝を読むつもりでいると、違和感を覚えるかもしれない(現代の目から見るとモラルの点で首をかしげたくなる記述もある)が、成り上がり物語として読めば十分に楽しめる。

おススメ度:★★★★★
(日本における自伝の嚆矢ともいえるわけだし、一度は読む価値がある)
読みやすさ:★★★★
(岩波文庫版は校訂で現代語化されているので、読みやすい)

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