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夢と魅惑の全体主義/井上章一

 イタリア、ドイツ、日本のファシズム時代と同時代のソ連、中国の建築を概観していくことで各国の違い、とりわけ「日本ファシズム」のショボさを明らかにする一冊。…という内容よりも、著者である井上章一の注目度で読まれる本なのかな。

 表題の「夢と魅惑の」は、日本には全然当てはまらない。ムッソリーニやヒトラーは、半ばクーデターで政権を奪取したために、自政権への国民の支持を得るためにアピールする必要があった。そして、将来への希望を国民に抱かせるために、建築によってユートピアを演出したという。
 対して、日本では政権の正統性をアピールする必要がなかったために、壮大で華麗な建築群を必要としなかった。むしろ、官僚主導の実務的な建築政策が繰り広げられ、1937年には「鉄鋼工作物築造許可規則」なるものが制定され、軍関係以外では鉄材を50トン以上使う建築は認められないことになった。そのため丸の内・大手町界隈には木造の、著者の言うところの「バラック」官公庁舎が林立し、1940年には落雷一発で9棟が焼失する羽目になった。大阪駅舎の建築工事は中絶され、6階までの鉄骨は裸のままで放置され、やがて3階から上の分は撤去された。これらは太平洋戦争の始まる前の話だ。いかにもショボい。貧乏くさい。
 ソ連でもスターリンの威光で建築の動向が左右されたし、中国でも日本の出先機関が漢民族の好みに迎合したような建築をしているといった事例を挙げることで、ひとり日本のみが建築に無頓着であったということを明らかにしていく。

 井上章一が建築の本を書くのは随分久しぶりではないか? なんというか、さすがに歳をとったなあと思った。内容の良し悪しではない。喧嘩の仕方が若くなくなっている。『つくられた桂離宮神話』の講談社学術文庫版あとがきで見せた闘魂は、今回は遠慮がちに出されている。喧嘩の相手が明確でないということなのかもしれないが、残念(一体何を期待しているのだ? 私は)。

おススメ度:★★★★
造本意外度:★★★★★
(新書なのに400ページ超の部厚い本。本体価格1300円ですよ)

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