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信長の戦争――『信長公記』に見る戦国軍事学/藤本正行

 桶狭間の合戦は奇襲ではない。墨俣一夜城は実在しない。長篠合戦での鉄砲三段撃ちは創作。といった内容からなる一冊。副題にあるように『信長公記』を根拠とするが、それだけでなく、他の資料や戦国時代の常識や信長の一連の言動から見た一貫性も活用している。

 桶狭間の合戦についていえば、そもそも今川義元が京へ上ろうとしていたという前提が間違っているという。単なる国境の領土争いだという。したがって織田軍は一か八かで敵総大将の首を取らなければ国が滅びる、というような状況ではなく、ある程度の打撃を与えて退却させればそれで十分だった。
 今川軍の侵攻を受けた状況で隠密行動は不可能であるし、今川本陣の位置をつかんでいたとしても、本陣が移動するリスクもあるから迂回して奇襲を狙うというギャンブルは合理的ではない。さらに、今川義元の布陣・行動はおおむね合理的であり、油断していた形跡はないともいう。『信長公記』の記述からは、織田軍は正面から攻撃したことがわかるというのだ。奇襲でもなく、なぜ劣勢の織田軍が勝ったのかというと、著者は「幸運だった」という。
 著者は桶狭間の合戦における今川軍をミッドウェー海戦における日本海軍になぞらえる。敵陣攻撃のために準備しつつ、敵機動部隊が現れたら攻撃目標をそちらに変更するという作戦が、敵の出現するタイミングによっては混乱を招き相手の攻撃に脆く敗れるというものだ。この考察はなかなか面白い。
 織田軍が戦場に現れたのが合戦当日の午前中。当時の常識的な戦い方では翌日の黎明に攻め込むのが一般的であるのに、到着後間もない午後に、しかも低い位置から高地の敵に向かって攻めていくという行動は今川軍前衛部隊の虚を突いた。今川本陣は本陣で、無駄な戦闘を避けるべく退却戦を行ったのだが、下がりながらの戦いゆえに崩されたのだろう。

 このほかの、美濃攻め、姉川合戦、長島一向一揆ジェノサイド、長篠合戦、毛利水軍との海戦、本能寺の変の背景、について述べた各章でも、著者は『信長公記』と戦国の常識、軍事的な合理性をもとに考察を進めていく。
 信長を天才的な戦争指導者として描くのではなく、常識的でロジカルな信長の行動様式から考察を進めているので、かえって信長の優れた判断力と実行力がリアルなものとして浮き彫りになっていると思う。

おススメ度:★★★★
序章重厚度:★★★★
(信長公記の信憑性を述べる序章が長すぎる。なんなら飛ばしてもよいかも)

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