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マルコムX自伝

 黒人解放運動の指導者の自伝といった限定された意味づけでとらえずに、単に1人の人間の自伝と捉えたほうがよい。なかなか波乱万丈だから。ちなみにいうと私はスパイク・リーの映画も見ていないし、それほど予備知識は持っていなかったが、それは気にならなかった。

 父親は黒人運動にかかわって人種差別主義者に殺され、母親はたくさんの子供を抱えて精神を病み、子供たちはバラバラになった。マルコムは、そういう語り方はしていないが、早い時期から社会不適応気味で、腹違いの姉を頼ってボストンに出てからも真っ当な職は長続きせず、不良文化に親しむ。ニューヨークのハーレムに出てからもその傾向で、麻薬常用者となり、徐々に不法行為、犯罪行為に手を染めるようになった。1925年生まれのマルコムは、第二次大戦中の十代後半の時期を「ハスラー(チンピラとかヤクザって感じの語彙みたい)」として過ごしたが、20歳の時に窃盗で逮捕され投獄される。
 獄中で家族の薦めでイスラム教(厳密にはちょっと違うという)に出会い、ブラック・ムスリムズ(ネイション・オブ・イスラム教団)のトップであるイライジャ・ムハマドとの手紙のやり取りなどを通じて、心酔する。獄中の図書館で黒人差別の歴史やキリスト教など様々な本を読み漁り、刑期を終えた後は教団に入った。
 このときに「マルコムX」の名前は与えられた。マルコムは本名のファーストネーム。「X」は、白人によって付けられたファミリーネームを拒否し、アメリカに連れてこられることで失われた種族の誇りやらを表すのだという。で、この教団には「ジェームズ15X」とかもいる(15人目のジェームズX)。
 この教団の中で、幹部(実質的にナンバー2)として演説をし、パネルディスカッションに参加し、黒人解放への急進勢力・過激派として、教団の勢力拡大をもたらしたのがマルコムXの功績であり、彼のイメージを形成している。

 この辺りまでは、ある種のサクセスストーリーなのかなと思われるのだが(犯罪に手を染めたとはいえ、ハスラー社会で生き延びていたのだし)、俯瞰してみると気の毒な感じもする。
 確かに彼には行動力があって、カリスマ性があって、他人を引き寄せる力があったのだと思う。しかしながらその力を発揮する方向性は彼が選び取ったのではなく、手近にあったものに飛びついたようだ。視野が狭い、といってもよい。
 ただし、そのこと自体が黒人差別を反映したものであろう。1930年代の黒人、なかでも下層の人々にとって、憂さ晴らしになるのはダンスぐらいだったろうし、のし上がる手段は非合法なものであったろう。白人を巻き込んだために通常より重い刑期を科された者にとって、「黒人の苦境は悪魔の白人のせいだ」という宗教を家族が教えれば、それに飛びつくのも無理はない。

 マルコムXは30代後半には教団から追放され、39歳で教団の者によって暗殺された。暗殺が迫っている中でマルコムX自身は公式には「妬み」に原因を求めたようだ。が、彼の妥協を許さない一本気な性格が鬱陶しがられ、邪魔になったということもあるのだろう。教団運営に関する路線の違い(積極的な行動を望んだマルコムXとそれに反する人々)が最もわかりやすいが、戒律に反したイライジャ・ムハマドに対する態度でも敵を作ったように思える。
 皮肉というべきか、教団から離れ、暗殺の前の1年間に彼は丸くなった。「白人の中にも良い人がいる」ことを受け入れた。メッカを訪れて正統なイスラム教に接したことが契機のようだが、端的にいえば彼の視野が広がって新しい判断材料を仕入れたということなのだろう。
 その新しい境地に達したことで、急進派からは転向したと批判され、穏健派からは旧イメージでの批判が続いたのだから、過渡期に暗殺された格好だ。彼を買っていた人々にとっては、その意味でも残念だったのかもしれない。

 という受け取り方を私はしたが、それは、この自伝をまとめたアレックス・ヘイリィに誘導されているのかもしれない。
 後に『ルーツ』が大ヒットするアレックス・ヘイリィは、多忙なマルコムXの晩年2年間にわたって口述筆記をし、自伝をまとめた。読みながら意識はさせられないが、彼の筆が行間に示しているものは多いと思う。また、彼が書いた長文の「エピローグ」は、マルコムXとの付き合いを述懐したり、非公式の発言を拾ったり、暗殺の経緯をまとめたりしており、本文を補完している。本文と併せて、本書の価値を高めている。

おススメ度:★★★★★
(アメリカ人は自伝の作り方がやっぱうまい)
白人悪魔度:★★★★★
(教団時代のマルコムXの主張もわかりやすいのだと思う)

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