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「人工冬眠」への挑戦/市瀬史

 タイトルを見るとSFじみているが、サブタイトルは「『命の一時停止』の医学応用」と現実への応用を思わせるものになっている。しかし、素人的には裏表紙の「クマやリスに学ぶ最先端医療」こそが本書の面白さを端的に表していると思った。

 基本的には「低代謝」をいかにして実現するかが課題なのだが、それを実践しているクマやリスの生態は興味深く、人工冬眠を成功させるための課題への対処法も興味深い。
・リスの冬眠時には体温2~10℃(覚醒時37~39℃)、心拍は3~5回/分(覚醒時200~300)、呼吸4~6回/分(覚醒時100~200)、代謝率は覚醒時の2~4%。
・リスは冬眠中にも2週間おきに37℃まで体温を上げる。このことでエネルギーを非常に消費する。どうもそれは冬眠中の「睡眠不足」を解消するためらしい。睡眠と冬眠は違う。
・クマは冬眠中もリスほどには代謝を抑制しない。代謝率は25~50%にしかならず、体温も30~34℃。
・クマはエネルギーやタンパク質、カルシウムを体内でリサイクルできるので100日あまりの冬眠期間中、飲まず食わずで排泄もしない。
・体内のエネルギー循環のおかげで筋肉の廃用萎縮も、廃用性骨粗鬆症にもならない。
・こうした化学物質面での冬眠研究は、人工冬眠に限らず、一般的な医学課題への対処法としても注目されている。

 全部を書き写しはしないが、冬眠研究の基礎知識から最前線(本書は2009年4月発行)までをまとめており、初めから終わりまで全部面白い。
 自分用のメモ。ロシアの長い冬を寝て過ごす「ロッカ」という風習が18世紀初頭まであった(中央アジアやモンゴルでも同様)。フランスのアルプス地方の農民も「5か月の地獄と7か月の冬」といって冬は家畜と一緒に暖をとり、食べ物を減らして過ごした。

おススメ度:★★★★★
(最高評価です)
基礎知識度:★★★★★
(冬眠を研究することの意義が基礎から広範にわかる)

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