« 「人工冬眠」への挑戦/市瀬史 | トップページ | 芸術随想 おいてけぼり/洲之内徹 »

ナチス狩り/ハワード・ブラム(大久保寛訳)

 ひどい邦題に貶められているが、まともな本だ。抗議する主体がいないってことなのだろうが、この邦題のチョイスはないな。架空歴史戦記かなんかのヨタ本かと思ったよ。

 原題は「The BRIGADE」で、訳せば「“旅団”」だ。具体的には、第二次大戦末期にイギリス軍の指揮下に編成され、イタリアで対独戦に従事したユダヤ旅団のことをさしており、書名としては「ユダヤ旅団」で必要十分だと思う。
 ただし、「ナチス狩り」がまったくのデッチ上げというわけでもない。政治的な妥協の産物として誕生したユダヤ旅団だが、イタリアでは働き場が与えられたものの、終戦と同時に進軍を止められ、ドイツ国内に入ることは認められなかった。そのことに焦燥感を抱いた一部のユダヤ兵が「処刑隊」を編成して元SS将校(本書の記述では300人ぐらい)を暗殺して回ったことが記されている。
 しかしそれは一時的なものだし、本書の中でのウエートもさほど大きくはない。それどころか暗殺行為の不毛さと、そのことに不感症気味になっていくことへの危惧から、ヨーロッパ各地で生き残ったユダヤ人(特に子供〔孤児?〕)をパレスチナに移送することにシフトしていったことが記されている。

 ストーリーは4人の人物に焦点を当てて進められる。ドイツからパレスチナに移住して独立運動(?)に参加した叩き上げの軍曹、ポーランド出身で大英帝国の士官教育を受けた尉官、ウクライナからパレスチナの大学に来てから志願した輸送部隊の兵、そしてその妹。この妹の逃避行が効いている。
 ウクライナの農村で両親と3人で暮らしていたが、ナチスが進出してユダヤ人が収容所に集められることになり、娘と母親は裏庭のゴミ箱の下に掘った穴の中で夜まで隠れた(父親の消息はそれっきり)。母娘は知人を頼って逃げるが、以前は友好的だったウクライナ人が信用できないものとなっており、匿われたと思ったら憲兵に突き出された。収容所に連れて行かれると思ったが市街地とは反対の森の方向に歩かされたことで、組織ではなく個人による暴力を予感した娘は、逡巡する母親を置いて銃撃を受けながら単身逃亡する(母親の消息はそれっきり)。その後も森の中のユダヤ人グループが皆殺しにあうのを危機一髪で逃れたりしながらエルサレムを目指す。

 個々人の事情に近寄りすぎて全体像をつかむのには適していないのかもしれないが、イスラエル建国前後のユダヤ人の(一部にせよ)心境を知ることが出来る。不勉強な私にとっては類書の乏しい分野の本だと思った。
 
おススメ度:★★★★
(シオニズム運動の全体像ではないけど、ある部分がわかる)
歴史事実度:?
(これはフィクションだ! と言われたら私には反論できない)

|

« 「人工冬眠」への挑戦/市瀬史 | トップページ | 芸術随想 おいてけぼり/洲之内徹 »

歴史」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/106060/48435409

この記事へのトラックバック一覧です: ナチス狩り/ハワード・ブラム(大久保寛訳):

« 「人工冬眠」への挑戦/市瀬史 | トップページ | 芸術随想 おいてけぼり/洲之内徹 »