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日本男児/長友佑都

 明大サッカー部で試合のメンバーに入れずスタンドで太鼓を叩いて応援していた男が、ほんの数年で「世界一のサッカーチーム」であるインテルミラノの一員へと大出世を遂げた成長物語。24歳で自伝って、と自らも思ったらしいが、しかしこの本は「今」出すことに意義があると思う。

 長友のサッカー人生で最大の危機は中学時代だった。愛媛FCジュニアユースのセレクションに通らず、地元中学校のサッカー部に入ったものの、そこは「不良の巣窟」でまともな練習などはしていなかった。長友もゲーセンに入り浸り、辛うじてタバコは遠慮していたという状態だった。
 ここに登場するのが熱血教師。サッカー部の指導をしたくて教員を目指すもなかなか合格できず(明記されていないけどそれっぽい)、晴れて正式採用されて初めて赴任してきたのが、正に長友の入学と同じタイミング。「一緒にサッカー部を盛り上げよう」と、片足を踏み外していた長友たちを説得して連れ戻し、サッカーをさせた。その熱血ぶりは「俺は今からお前たちを殴る!」と言いながら泣くのかと思ってしまうほど。
 先輩たちが不良でまともな練習をしない、自分もそれに染まってゲーセン通い、熱血教師の登場、母子家庭であることに屈折する主人公、といった舞台立てはまるで昭和の青春漫画だ。が、そのベタさがいい。
 こういった、教師や長友自身の「熱量」は、時間が経てば、人生経験を積み重ねれば、消えてしまう。振り返ってみても思い出せないか、覚えていても再現できない。10年後というのは、読者にもその熱量を伝えられるギリギリの時期かもしれない。だから、24歳でこの自伝を刊行したことに価値がある。

 それ以外の部分は別に今でなくても良かった。
 スタンドで太鼓を叩いていて鹿島アントラーズのサポーターに勧誘されたといっても、その時は怪我をしていただけだ。「無名選手」という位置づけも話半分に聞いておくべきという気がする。そもそも東福岡高校にはスポーツ推薦で入っているのだし。中学校時代は運動量の少ない選手だったが、駅伝大会に向けて練習をしてからはスタミナが売りになった、とかいうのも普通の選手ならあり得ない成長曲線だ。もちろんかなりの努力を重ねたのは間違いないだろうが、彼にはそれなりの天分があった。要するに彼はフィジカルエリートなのだ。
 だから、大学でレギュラーを獲得し、オリンピック代表に選ばれ、イタリアに渡り、インテルへの移籍を果たし、さらなる成功を収めるとして、それらについては単純に努力の成果とするのではなく、もう一ひねりが欲しい。その点では自分の方法論、考え方を整理した長谷部の本は「機が熟した」感じがする。長友は、その点では物足りない。

 こう書くと長友のこの本よりも長谷部の本を評価しているように見えるが、実はそうではない。中学時代の「熱さ」を書き残せたことにはとても価値がある。自伝らしい自伝で、感情移入もできて、大変よろしいと思いながら読んだ。ま、長谷部の本は自伝じゃないから比較するのは変だけど。

おススメ度:★★★★
(難しいことを考えずに読める)
青春熱血度:★★★★★
(ベタで暑苦しい昭和の青春を感じ取れる)

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