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消えた横浜娼婦たち/檀原照和

 戦前の「メリケンお浜」と戦後の「メリーさん」という、2人の娼婦の足跡を辿ったノンフィクション。2人の人生を描くためになされたバックグラウンドの説明が隠れテーマであり、著者自身も述べているように「横浜裏面史」をまとめた1冊となっている。

 横浜の開港直後から政策的に娼館が設けられたのだが、著者の関心はそういった公娼よりも私娼、街娼にあるようだ。そのため「横浜裏面史」も、よりディープなものになっている。
 その中で私の関心を惹いたのは、横浜における「海賊」についての記述だ。第二次世界大戦が終わって間もない頃の出来事だ。

「いまとなっては信じられないが海賊まで出没した。闇夜に乗じて進駐軍の物資を運んだ艀を襲うのである。」
「襲撃の方法は米軍倉庫などから盗み出した銃や日本刀、スコップなどで船頭を脅すというものだった。艀船団は100~150メートル間隔で、一艘の艀には船頭ひとりしかいない。無防備このうえなく、獲物としては最適だった。
 ときには停泊中の外国船が襲われることもあった。
(中略)昭和28年からの3年間で海賊の被害は300件以上、被害額は当時の金額で4000万円にも上った。ときには密輸船が狙われることもあったが当然統計には出てこないので、実際の被害はもっと甚大だったと考えられる。」
「海賊行為は「荷抜き」とよばれた。船や艀を丸ごと強奪するようなマネはせず、積み荷のほんの一部をいただいていく、というのが彼らの手口だったからだ。なぜ一部だけだったかといえば、被害額が全体の二割以下であれば海上保険でカバーすることができ、大事にならずにすんだからだ。検数員を抱き込んでいたために、自然とこういうやり方になったのだろう。」

 だいたい海賊の実像は「食い詰めた漁師の生活手段」だったりして、「命知らずの海の男たちの勇壮な冒険譚」なんかではない。映画や漫画なんかで描かれるものとは大きく異なる。まして横浜の海賊は上記の記述を見る限り「けち臭い横領まがいの強盗団」だ。
 それを知ってしまうと、横浜のバスケットボールチームが海賊を名乗るというのは歴史というものへの意識のなさ、もっといえば子供っぽさを表していると思う(「横浜ビー・コルセアーズ」のコルセアってのは海賊という意味)。
 
おススメ度:★★★★
(近代日本の風俗史という捉え方も可能かなと)
公式記録度:★
(パブリックな書類にはあまり出てこない話が多い)

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歴史」カテゴリの記事

コメント

「消えた横浜娼婦たち」の著者です。
拙著をご愛読いただきありがとうございます。
お気に召したようで、嬉しく思います。
さて、現在「横浜ナウ」というウェブマガジンで連載を持っています。
よろしければ、こちらにもお寄りください。
 
「レッドライト」
http://yokohama-now.jp/home/?cat=37

突然の書き込み、失礼いたしました。

投稿: 檀原 | 2011年11月12日 (土) 11:16

著者ご本人の降臨に緊張しています。なにしろ「本題」にはほとんど触れていないレビューなので。。。。
実はひっそりとブログも拝見しまして、「地域の歴史の書き方のコツがわかってきた」というような文面(うろ覚えですが)を拝見し、次回作を期待しながら(気長に)待つつもりになっています。

投稿: 迷亭 | 2011年11月14日 (月) 22:27

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