コービー・ブライアントはもう好きにしたらいいよ
コービー・ブライアントが1試合で81得点をあげた。1人で1試合に81得点なんて、マイケル・ジョーダンでもなしえなかった記録で、史上2位に当たる。いやはや、コービーがこんな記録を達成するなんて思ってもいなかった。脱帽すると同時に……がっかりもした。
ウィルト・チェンバレンが1試合100得点した試合の映像はないというが、伝えられる話では、試合の勝敗は序盤で決し、あとはチェンバレンが何点取れるかというゲームだったらしい。まあこれは当然推測できるところだ。1人に得点が集中するということは、意図してその選手にシュートを打たせたということであるし、拮抗したゲームならばそんなことはしない。NBAではポイントゲッターにボールを集めるのが常套手段とはいえ、1人があまりに集中的にシュートをするのならば、ディフェンス側もそれに対応して複数の選手でマークに当たってくるのだから。1人が高得点をあげるには、ディフェンス側の暗黙の協力、あるいはサボタージュが不可欠だ。チェンバレンのときもそうだったろうし、デビッド・ロビンソンが71得点して93−94シーズンの得点王を決めたときもそうだった(シーズン最終戦で、すでにプレーオフ進出の可能性がないクリッパーズが相手だった)。
ところが、今回はシーズンの真っ最中、第3クォーター途中までリードを許す試合展開だった。だから相手ディフェンスは手を抜いていたわけではないし、サボタージュしていたわけではない。「コービーが得点するだけの試合」ではなかったのだ。
もう一つ、今回の特徴を挙げるならば、コービーがガードの選手ということだ。ウィルト・チェンバレンにせよデビッド・ロビンソンにせよ、センターの選手だ。高さや対人の強さを生かしてゴール近辺で距離の短い、確率の高いシュートを沈めることができる。ウィルト・チェンバレンが決めた36本のFG(フィールド・ゴール)の大半がゴール下でのシュートだと推測される。コービー・ブライアントの28本のFGは、そのうち7本がスリーポイントシュートであることからもわかるように、コート上のあちこちから打ったものだ。これはやはり難易度が高いといってよいと思う。
とはいえ、諸手を挙げてブラボーと叫んでばかりもいられない。対戦相手のトロント・ラプターズはアトランティック・ディビジョンで最下位のチームだ。手抜きもしていないだろうし、サボっていたのでもないだろうが、能力が劣ることは否めない。
今回のコービーの81得点に価値がないなどと言うつもりはない。問題なのは、コービーが81点を取らなければこのレベルの相手にも勝てなかったかもしれないレイカーズの現状で、その意味でがっかりした(私はレイカーズのファンではないが、レイカーズが弱いと盛り上がらない)。
今シーズン、フィル・ジャクソンがヘッドコーチとして戻ってきたレイカーズだが、そのフィル・ジャクソンがヘッドコーチに就任した90年のシカゴ・ブルズとイメージが重なる。コービー・ブライアントはもちろんマイケル・ジョーダンに似たポジションにあり、オールマイティな能力が認められながら精神面を不安視されるということで、ラマー・オドムとスコッティ・ピッペンも似ている。あとはリバウンダーがいれば格好がつくのだが、ホーレス・グラントの役目を求められるクワミ・ブラウンはここまで1ゲーム当たり26分の出場で6.1得点、6.0リバウンドと期待を裏切っている(故障の影響もあるだろうが)。
シーズン序盤のもたつきを脱し、現在ウエスタンカンファレンスで7位につけているレイカーズは、プレイオフには出られるだろうが、スパーズやサンズを相手にして勝ち進めるとは思えない。
だからコービー・ブライアントはワンマンプレーでもなんでも、自由に得点をねらってほしい。短期的にみて他チームにとってそれが一番の脅威であると思うからだが、それだけではない。
コービーはもっと自由奔放にプレーして欲しい。マイケル・ジョーダンに匹敵する能力があるといわれながら、今まではその全貌を見せてはいなかったと思う。もちろん、シャキール・オニールとの共存といったチーム事情のせいでもあったろうが、なにか縛られているような印象を受けていた(シャックがいる間は、コービーが81点取るイメージはなかった)。今はそんな配慮は不要だ。あまりにも若いうちに老成すべきではない。コービーの選手人生という観点から言えば、自由奔放な時期があってもよいはずだ。
たぶん、来シーズンのレイカーズは必要な補強をし、フィル・ジャクソンも今シーズンの汚名(と本人は思っているのではないか)返上に突き進むはずだ。コービーが好き勝手にプレーしても許されるのは今シーズンが最後だ。
そしてその奔放なプレーによって、レイカーズが今シーズンの台風の目になるかもしれない。もしそうなれば、81点を取ることよりも価値がある。
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