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2006年9月 2日 (土)

アメリカの選手が逃げる日が来るなんて

 アメリカは予想された問題点をさらけ出して敗れた。ここ数年の国際試合における負けGreusa1パターンどおりだった、というべきか。なんとも既視感にとらわれる空回りぶりで、終盤には、レブロン・ジャームズ(#6)が豪快なダンクをしても大勢に影響はなく、「それがどうした」という寂しいものだった。
(2006年9月1日 世界選手権準決勝 ギリシャ101ー95アメリカ さいたまスーパーアリーナ)

 アメリカ・チームの不安材料はここ数年いつも、
・インサイドで勝てない(負ける)
・外角からのシュートを決めきれない
・チームが若く、精神的に脆い
といったところ。
 今回も、メンバー選考の段階で、フロントコートが弱い、ピュア・シューターがいない、という問題点を指摘した(「バスケ最強国は本当にアメリカなのか」参照)が、まさにその通りになってしまった。

 ところで、予選リーグからアメリカは、自らのウィーク・ポイントを自覚したかのような戦いぶりを見せていた。
 ペイント・エリアでの勝負にならないように、高い位置からディフェンスでプレッシャーをかけてボールを奪い、速攻に持ち込む。確かにこれもアメリカの必勝パターンの1つで、ビッグ・センターがいないときの戦い方だ。バックコートにタレントをそろえた今回のチームにふさわしい戦い方でもある。
 まあ、これは弱者の戦術であって、王国としては寂しい戦い方とも言えなくはないが、しかし、このような第2パターンでも戦えるところが、王国の懐の深さともいえよう。

 ギリシャ戦でも、序盤はこの戦い方ができていた。PGのカーク・ハインリック(#5)を先頭にプレッシャーをかけ、ギリシャのオフェンスを窮屈にし、インターセプトから速攻に持ち込み、レブロンが豪快にダンクを決める(このときは盛り上がった)などして、ジワジワとリードを広げた。
 その後、アメリカのプレスは徐々に厳しさを失い、ベンチがハインリックを出し入れしても蘇らなかった。「あのプレスを1試合続けられたら」と言ってみてもいいが、それはちと無理だろう。「3ポイントシュートがもっと入っていれば」と言ってもいいが(確かに28本中9本では少ないし、アメリカから見て右0度はギリシャディフェンスが捨てていたにもかかわらず率が低かった)、問題点はやっぱりインサイドだった。

 序盤のうちから、アメリカの弱点インサイドは突かれていた。ギリシャのセンター、ラザロス・パパドポウロス(#14)はローポストで1対1を仕掛け、エルトン・ブランドを押し込んでいた。アメリカベンチはブランドをドワイト・ハワード(#12)に代えるなど試行錯誤をしていた。劣勢は覆らなかったものの、そのパパドポウロスは不運なファールを吹かれベンチに下がった。
 今となってはそれがアメリカにとって幸運だったのか、不運だったのかわからない。代わりに出てきたギリシャのミニ・シャックともいうべき(208センチとはいえ、体重125キロ。一目で「この選手のことね」と理解できるゴムまり系)ソフォクリス・スコーツァニーテス(#5)が大活躍してしまうのだから。

 出てきたばかりの時間帯はフリーのダンクをリングに当てて失敗するなど、練習のときからの不器用ぶりを見せたのだが、どこでスイッチが入ったのか、途中から大暴れ。ローポストで縦横無尽の働きで得点を稼ぐし、アスレチック・アメリカを相手にして速攻でのシュートまで決めてしまう。17分の出場で14点の荒稼ぎ。
 特に象徴的だったのは、スピンなどしてゴールへ向かうスコーツァニーテスに対してアメリカの選手がチャージングを取りにいくような気配もなく、見送っていた場面だ。確かに、無理にコースに入ってもディフェンス・ファールを吹かれるのでは仕方ないからブロックショットを狙っていたのかもしれない。あんな選手とまともにぶつかり合ってケガをしても馬鹿らしい。だから判断として間違っているとは言い切れない。
 そういうことではなく、このシーンは、アメリカと世界の距離が縮まった(逆転した?)ことを端的に示していると思う。かつてなら、相手ディフェンスに見送らせるのはアメリカのお家芸だった。チャールズ・バークレーが突進してくるのに、立ち塞がるのは大変なことだった。チャージングを取ったところで、ケガをしたんじゃ元も子もない、と思わせられた。けれど今では、アメリカの選手も同じ思いを抱いている。
 デブで動ける選手は、いまやアメリカだけのものではないのだ。
Greusa2

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
  • 三鷹牛蔵
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