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2006年11月26日 (日)

シェヴァの不在とミランの得点力不足

ミランが不振にあえいでいる。ダービーでの不名誉な敗北を持ち出すまでもなく、彼らは第3節以降、リーグ戦で2得点以上していない。シェフチェンコの抜けた穴はあまりにも大きく、オリベイラは代役を果たせず、ジラルディーノは今やチームのお荷物に成り下がっている。今こそ彼らは、シェヴァの偉大さがどこにあったのかを知るべきだ。

不振の原因はハッキリしている。とにかく、点が取れない。序盤の2試合はともかく、第3節のアスコリ戦以降、リーグ戦では2得点以上挙げた試合は皆無である。チャンピオンズリーグではそれなりの結果を収めているものの、グループリーグは明らかにくじ運に恵まれていた。必ずしも国内の格下チームに劣るわけではないが、こと守備力に関しては間違いなく、事情が違う。これまでに13試合で12得点という成績だが、優勝を狙うはずの強豪にはあまりにもふさわしくない数字だ。卑近な例を挙げれば、浦和のワシントン一人で補えてしまう得点率である。

ここまでのミランのFW陣はといえば、ピッポ・インザーギは幾多のチャンスを決め損ない、今季加入のオリベイラはシェヴァの代役をこなすには程遠い成績だ。ジラルディーノに至っては、もはやチームのお荷物になりつつある。人数の帳尻を合わせるために呼び戻されたボリエッロは、そもそも監督の信頼を得ていない。結果、FW4人のうち、得点ランキングに誰も顔を出さないというのだから、処置なしだ。トップ下のカカは一人で気を吐いているが、彼は本来、シュートの上手い選手ではない。トッティやロナウジーニョとは違う。こうなってみると、シェフチェンコを失った影響は、驚くほど大きかったといわざるを得ない。

ゴールハンターとしてのシェヴァの偉大さは、シュートの上手さと勤勉さにある。両脚で正確かつ強いシュートが打て、しかもモーションが速い。そのため、相手DFに囲まれようとも、かなりの確率で固められたゴール前を陥落させられる。さらにスピードもあってドリブルの技術にも長けており、現在最も完成されたストライカーの一人である。

しかし、多くの万能型ストライカーと彼が異なるのは、勤勉であることだ。例えば、ボールを奪われて自ら自陣まで追いかけるシーンがたびたびみられるが、あれは彼の勤勉さを端的に示すものだろう。しかし、それ以上に凄いのは、ボールを受ける前の「動き出し」に労を惜しまないことである。味方からフリーでパスを受けるために、彼は前線で始終動いている。DFラインの裏へ抜け出すことを狙うだけでなく、いったん手前に引いてから再び動き出すなど、その種類も豊富だ。そして彼の技術とシュート力からすれば、外に流れてボールを受けたとしても、シュートに至ることは難しくない(単にサイドに流れて起点になるのではなく、いったん自陣側に数歩戻り、マークする敵DFのゴールとは反対側に流れる動きのこと)。この努力のおかげで、彼はミランでより多くのパスを味方から受け、より多くのシュートを打ってきた。毎年のように20点近いゴールを挙げてきたのは、必然である。そしてセリエにおいて、PKやフリーキックを蹴る機会がさほど多くないというに、ここまでの数字を挙げ続けるのは偉大なことだ。他のリーグで同じ成績をとるのとはわけが違うし、シニョーリの3年連続得点王とも異なる。

ミランでのシェヴァの在籍期間は、最初から最後まで華やかだったわけではない。当初は3トップを志向するザッケローニ監督によって右サイドでのプレーを余儀なくされ、中央でのプレーを望んで苦悩した。また、彼が去った後にはゴールを挙げることだけを仕事とする男・インザーギがやってきて、味方がシェヴァに送るパスの数は恐ろしく減ってしまった。故障に悩まされ、不遇を囲ったシーズンもある。

そうした数々の苦難を乗り越え、彼は自らのスタイルを確立してきた。ディナモキエフでは王様として君臨してきた小僧は、自らのスピードを生かすスペースを与えられないセリエのなかで、生き残るために変わったのである。技術面に磨きをかけるとともに、インザーギから動き出しの技術を盗んだ。ゴール前以外でボールを得ても仕事のできないピッポと違い、射程距離が広く、ドリブルでの打開もできるシェヴァの動き出しは、オリジナルより大きくて多彩だ。あるインタビューで、「ピッポは思われているほど動き回らないんだよ」と話していたのが強く印象に残っている。だから自分は、大きな動きでボールを引き出すのだ、と。

FWの動き出しは通常、テレビ観戦ではあまり見ることができない。しかし、パスを出す側からすれば、これは大きな「理由」になる。イタリアでは、前線へのパスは奪われないところに入れるのが常識だ。だから、条件が同じであれば、より体格面で逞しく、敵のDFとわたり合ってボールをキープできる選手にパスを出す。より得点力のある選手にパスを出すなんてことは、彼がフリーでなければあり得ない。かつてのビエリやアドリアーニ、トニらの頑健なFWにボールが集まるのは、当然のことなのだ。体格に恵まれない他の多くのFWは、画面には映らないところで、相手DFと切磋琢磨している。

だから、ピッポ・インザーギは偉大だ。ろくなボール・テクニックもなく、彼は純粋にゴールの数だけで勝負している。生き延びるためには、DFラインの裏に抜け出して、ワンタッチでシュートする手段に特化せざるを得なかったのだ。いうまでもないが、誰もが真似できることではない。彼より得点率の高いFWはそう多くはないが、彼よりドリブルの下手なストライカーを見つけるのは難しいのだから。

しかし、この技術をより拡大し、万能型のエースストライカーが身につけたらどうなるか。それが、シェヴァである。彼は、ミランにやってきたときから、前年のチャンピオンズリーグでブレイクした若手の大物だった。にもかかわらず、彼は度重なる試練を乗り越えるために自らのプレースタイルを変え、押しも押されもせぬエースストライカーになった。

ジラルディーノやオリベイラは、そのことを知らねばならない。ピッポは、誰が隣にいてもピッポだ。得点を挙げていないだけで、彼は自らの仕事はこなしている。学ぶべきは、他の二人のほうである。とくにジラルディーノは、あまりにも唐変木だ。今の彼にパスを出したい選手など、どこにもいまい。ここはパルマではない。敵にガチガチにゴール前を固められる世界屈指の強豪クラブなのだ。待っていればボールが来ると思っているのなら、評価額が下がらないうちに出て行ってくれ。

なお、シェヴァについては、プレミアでの復活を祈るばかりだ。今季から移籍したチェルシーでは今なお結果を出していないが、彼がドログバを生かしているのは事実だし、今後は自らスタイルを変えていくだろう。そもそも、サイドのウイングへのロングボールが伝家の宝刀であるチェルシーにおいて、彼のこれまでの手法は必ずしも有効ではない。むしろ、ロングボールが飛ぶたびに、彼の勤勉な動き出しがテレビに映るという、なんとも皮肉な事態になっている。もし仮にミランへ戻ってくる気があるのなら、ベルルスコーニとガッリアーニには三顧の礼で迎えてほしい。というより、今ミランに欲しい選手は誰かと問われれば、ワタクシは間違いなくアンドリー・シェフチェンコと答える。

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  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
  • 三鷹牛蔵
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