ピート・ローズのハッスル野球教室 その2
原題を“Pete Rose's Winning Baseball”という本書の日本版書名を「ハッスル野球教室」とした報知新聞社の判断は実に的確だ。なにしろ、
「野球の理論、技術論なんて大リーグもリトル・リーグもそれほど差があるものではない。要はどれだけやる気になってやるかの差だと思う。それがわたしのいうハッスルでもある。」
という序文で始まり、ハッスルすることの意義を説くのが本書の眼目なのだ。競技の違いを超えて、湘南ベルマーレの選手諸君にも是非読んでもらいたいぐらいだ。
(『ピート・ローズのハッスル野球教室』訳・土屋一重 報知新聞社 昭和54年3月31日初版発行)
前回記事では第1章「だれだってハッスルできるんだ」の冒頭部分を紹介したが、まだ第1章の続きだ。
野球を始める前にやることは、まずハッスルしようと心に決めることだ。実際何ごとをやるにもこのことがいえる。保険の勧誘でも、ミゾを掘るにしても、会社を経営するにしても同じことよ。
第二に、これもどの分野に進むにしろ同じだが、やる以上成功しよう、勝とう、としなければ意味がない。特にスポーツではこの“勝とうとする姿勢”(積極性、ガッツ)がものをいうのだ。そして積極性とかガッツという勝とうとする姿勢は自信から生まれるのさ。
成功したいと思うなら、自分自身に、そしてチームに自信をもたなければならない。しかし残念ながら野球はこういった姿勢を育てていくのがたいへんむずかしいゲームだ。
大リーグの場合、1シーズン100勝すればまず上出来、と考えながら春のキャンプを始める。当然のことながら100勝ということは、残り62試合は負けることを意味している。
たとえ優勝チームでも最低62回の失敗をする、という現実がたちはだかるのよ。だがたとえ負けそうだとわかっても、それを認めてはいけないのだ。一度負けを認めると負けることが平気になる。敗戦は事実だ。しかしそれをしようがないと受け取ってはダメだ。つぎの日は勝つためにさらに努力して、力の限りかつためにあらゆることをやってみるのだ。
心に決めて一生懸命やる――チームと自分自身を信じて――これが勝とうとする姿勢、積極性、ガッツに結びつく。もっと簡単にいえば、勝とうとする姿勢は積極的な考え方をすることにほかならない。このことはいくら強調してもいいすぎないくらいだ。
こんなことはできるんだ、と考えなければなにもできはしないぜ。打てる、と思わなきゃ打てるわけはないし、勝てると考えなきゃ勝てるわけもないのよ。
自分で持ち合わせている能力を信じ、それを活用しなきゃいけないんだ。そうすれば必ず勝てる――間違いなく勝てる。
オレを信じなさい!
野球も、保険の勧誘も、溝を掘るのも、会社の経営も、「同じこと」なのだ。ベルマーレの選手にだって間違いなく当てはまる。
さらに、精神的な部分を重視する文脈において、ピート・ローズはスランプの原因を分析する。
自分に対する、あるいは試合に対するこういった心の持ち方は非常にたいせつなことだ。こういうことはいつでも簡単にわかるが、選手がスランプになったとき、特にはっきりするものよ。オレはスランプなんて90%が精神的なもので、肉体的、技術的なものは10%と堅く信じている。
スランプというものはまずツキが落ちることから始まる。あるいはスイングにちょっとした欠陥がでることもあろう。しかし8打数ノーヒット、13打数ノーヒットなどとなってくると、これまでやってきたことに対する自信を失いはじめる。態度もオドオドしてくる。あれこれ変えはじめ結局完全なスランプに陥ってしまうのだ。
これには全くあきれかえってしまうぜ。大リーグに7年も8年も在籍し、それなりの活躍をしてきた選手でもスランプに陥るヤツをオレは見てきたが、そうなると突然いろんなヤツがここが悪い、あそこが悪いといい出す。さらに驚くことには当人がそれにいちいち耳を傾け、あれこれと変え始めるからいやになるよ。
それまでよかったことすべてに対する信念を、あれよあれよという間に失ってしまうのだ。そのかわり自信もなにもない新しいことをやってみようとし、あげくの果ては自分自身をも見失ってしまうというわけだ。やろうという気持ちはある、ハッスルもする、だが自信に満ちた勝とうとする姿勢を失ってしまったことになる。
こうなるともう打撃コーチより精神分析医が必要だ。こういうとき打撃コーチはなにをするかといえば、それまでその選手が成功していたやり方に戻すよう勧めるだけ。あとはラッキーヒット――バットが折れてフラフラと上がった飛球とかボテボテのゴロで結構――が2本も出て、選手が自分に対する自信を取り戻すことを祈るだけさ。
この後は、野球に特有ともいえる話題が増える。まずはコンディショニングについて次のように述べている。
ここで、ひとつびっくりする話をしよう。野球は極端に体を使うゲームではないということだ。野球をやるには、例えばバスケットボールやフットボールをやるほど、体調を十分に整えておかなくてもできるということよ。バスケットボールは初めから終わりまで走りつづけだし、フットボールは体力の争いのようなものだ。
野球じゃ、三塁打にするために走る回数が何回ある? 週に1回? せいぜいそんなもんよ。
しかし誤解しては困る。常にベストでプレーするコンディションになっていなければいけないのだ。シーズン初め――プロ野球ではスプリングキャンプの時期だが――に足を鍛えるために走り込まなければならない。マイル走者になる必要はないが、シーズンを通して筋肉痛などの故障を起こさずに、フルスピードで走れる状態にしておかなければならないのだ。
オレが勧めるのはスピードを増すための運動だ。野球ではスピードが最大の肉体的財産よ。攻めにも守りにも役立つ唯一のものだ。(中略)野球の試合をみていて、いかに多くの走者があと一歩でアウトになるか、いかに多くの野手があと一歩で打球に追いつけないかをみれば、スピードの重要性を理解できるはずだ。
もっとも、力をつけなければならない部分もある。両手、リスト、前腕部はバッティングやスローイングで非常に大事なところだ。ハンドグリップや小さなゴムボールをひまなときに握るのがいい。これなら高校生のガールフレンドと映画を見ながらだってできるじゃないか。もっとも、やる気があればの話だがね。
本書で最初の具体的なアドバイスがこれだ。そういえば土門も里中もやっていたね、ゴムボールを始終握るの。もっとも、浮いた話は聞こえてこなかったがね。
さらに話は食事に移る。
さてびっくりついでに多くの選手がいかに食事に無関心かもつけ加えておこう。特に即席のハンバーガー、ピザパイ、ミルクセーキが幅をきかせている最近は問題が多すぎる。
オレはサラダを添えたステーキに目がない。これには2つの効用がある。質のいいたんぱく質を補給し、体重をコントロールしてくれるのよ。
文字通りわが身を食いつぶして大リーグを去ったやつらをオレは随分みてきた。全くひどい話だ。食事をコントロールすることなど、スライダーを打つよりずっとやさしいんだ。揚げ物とか甘味はなるべく少なくして、上等な朝食、上等なステーキをとろうぜ。これはオレの忠告だ。
本書で2番目の具体的なアドバイスがこれだ。なにやらネタの雰囲気が漂ってきたが、第2章以降は具体的な話が満載だから、第1章はこの程度でよいのだろう。
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