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2007年2月18日 (日)

ロナウド活躍は諸刃の剣に――低迷ミランが抱えるジレンマ

 ロナウド獲得は是か非か――。シエナ戦で2ゴールを挙げ、3連勝に貢献した元祖・怪物。18日現在、1試合少ないラツィオが背後にいるものの、これでミランは単独5位に躍り出た。疑惑によるペナルティ、シェフチェンコの移籍がもたらした緊急事態を、ようやく鎮静させる働きをしたことになる。イタリアに戻ってきた恩知らずのフェノーメノは、不振が続くFW陣を抑えてエースになれるのか。そして来季の若返りを企図するミランにとって、この打開策は吉と出るのだろうか。

 シエナ戦で挙げた2ゴールは、世間の懐疑的な視線を吹き飛ばすに十分なものだったろう。往年のスピードはみられないが、「元・世界一」の名に恥じない決定力の高さを証明した。ロマーリオを髣髴とさせるとまでは言えないが、不愉快なまでの自信と落ち着きは、並みのストライカーとは一味も二味も違う。プレーの範囲は狭く、守備への貢献度は低いのだが、ピッポ・インザーギに慣れた選手たちには、批判するようなことでもないのだろう。そもそもミランのスタイル自体、FWが長い距離のドリブルを仕掛けるようなカウンターを武器としてはいない。もっとも、対戦相手がそれを許さないから、でもあるのだが。

 ただし、全体的な印象でいえば、極めて物足りないプレーに終始したといえる。ドリブルで相手をかわすことはなく、ロナウドならではの爆発的なダッシュ力を披露することもなかった。時折、静止状態から急速な動き出しをみせたが、それはむしろ緩急をつける「技」に過ぎない。インテル時代、反則する隙すら与えず、「怪物=フェノーメノ」という称号をいただくに至った高速ドリブルは、まだまだ鳴りを潜めている。

 リーグ戦におけるミランの復調は、ロナウドの活躍いかんにかかっている。監督が最も期待するジラルディーノはその期待(=出場時間)に見合うだけの活躍をみせられず、復活した職人インザーギは彼のできる唯一の仕事(=ゴール)をこなしているとはいえない。開幕直前に滑り込みで獲得したオリベイラはまるでチャンスメーカーのように振る舞い続け、レンタル帰りのボリエッロに至っては、ドーピング検査に引っ掛かる始末。リーグ戦における最多ゴール数がジラルディーノの7得点というのだから、強豪クラブとはとても思えない惨状だ。そもそも、出場時間が短いとはいえ、オリベイラはシエナ戦でようやく3ゴール目を挙げたが、ロナウドは加入2試合目で2ゴールである。チームとしては、「中途採用の即戦力」に期待せざるを得ない。

 しかし、ストライカー獲得に関するミランの失敗は、今に始まったことではない。この10年間、ウェア、シェフチェンコというバロンドール受賞のストライカーを輩出する一方で、数々の無駄な投資を行ってきた。例えば、ジダンの親友デュガリーがいたことをミラニスタ以外の誰が知るだろう? また、弱小クラブ・アラベスでの大活躍(シーズン22得点!)を買われてやってきたハビ・モレノは、ホセマリとともに泣かず飛ばずのままスペインに戻っていった。移籍金ゼロで獲得したリバウド、ビエリにしても、彼らの高賃金を思えば、経済的に考えれば無駄以外の何ものでもないだろう。認めたくはないのだが、ロビー・バッジオですら、これらの無駄な投資に含まれるといわざるを得ない。そもそも、シェフチェンコやカカの獲得自体、クラブの慧眼とは言い切れないものがある。

 むろん、元・怪物がリバウドやビエリの二の舞になるのかどうかは、まだまだわからない。ロナウドはセリエAのサッカーも知っているし、ミラノという土地も知っているし、さらにブラジル人チームメートが多いのも心強い。そして、ミラン以上に「大物」を受け入れる環境が整っている強豪クラブはないだろう。

 しかし、今回の補強がミランにとって応急処置であることも否めない。今季の最大の目標であるチェンピオンズリーグに出られないロナウドの獲得は、そもそも無理がある。コスタクルタ、マルディーニの引退を機に、来シーズンから若返りを進めたいクラブの思惑からしてみても、プランに合わない補強といえる。つまりは、来季のチャンピオンズリーグ出場に向け、何とかリーグ戦で4位を確保したいという「2番目の目標」による応急処置に過ぎない。経済的にはそちらの方が切実な目標なのかもしれないが、シェフチェンコ放出で得た資金がなければあり得なかった贅沢でもある。つまり、来季以降の構想にロナウドが入っているかというと、必ずしもそうではないだろう。

 いずれにせよ、次代を担うべきジラルディーノの不振が、こうした事態をもたらしたのは間違いない。パルマ時代には「イタリア人得点王」にまでなった若者も、今やユーロ2008への出場すら危うい。ミラン加入後を振り返ってみても、記録としてのゴール数はともかく、記憶に残るゴール、強豪から挙げたゴールは極めて少ない。このままでは、「無駄な投資リスト」に載るのは必至だ。なぜ、あの時、彼ではなくF・トーレスを獲得てきなかったのかという想いは、多くのミラニスタに共通するはずである。少なくともトーレスであれば、自身が不調でも味方のゴールをお膳立てすることはできたはずだから。

 こうしたライバルのスランプは、ロナウドの追い風になることだろう。少なくとも、守備を固める相手からこすっからく得点していく技術は、ピッポを除けば他のFWより間違いなく勝っている。ボールを失わないプレーではなく、困難ではあるが成功すればかなりの確率で得点できるプレーを選択できる「図太さ」は、日本人FWが見習うべき点であろう。ゴールさえコンスタントに挙げていれば、そこで何度失敗しようとも批判されることはない。ストライカーに必要なのは、「勝てば官軍」のメンタリティである。例えばシエナ戦でのヘディングゴールでは、わが妻から「デブでもあんなに飛べるんだ」との発言まで引き出した。ほぼ毎試合得点するFWであれば、それこそデブだってヒゲだっていいのである。

 今のミランにとっては、得点こそがFWに必要なものである。ゴールに至るまでのデティールではなく、ただ単純にゴールなのだ。チームが圧倒的なボール支配力を見せつければ見せつけるほど、相手はゴール前を固めてくる。その結果、FW陣は、その必要がないからチャンスメークに興味を示さず、ひたすらに中央に張りたがる。しかし、その選択をする以上、彼らはゴールを決めなければならない。しかし、肉弾戦でそれを成し遂げようとするジラルディーノも、一瞬の隙を突いてGKと1対1の状況を作り出そうとするピッポ・インザーギも、現状では対戦相手の脅威にはなっていない。カウンターから運良くフリーになったとしても、彼らにできることは限られている。ただ一人、カカを生かそうとする同郷のオリベイラだけが、サイドに開いて何かをなそうとしてきたが、これまではさほど功を奏してはいない。しかし、オリベイラのこの気遣いがロナウドに向かえば、目を見張る「現状打破」につながることも考えられる。利害の対立しないカカやカフーのフォローは、言うに及ばずだ。

 最後に。
 ロナウドは、世間で思われているほどバカではない。今回、レアル=カペッロに追い払われたのは事実だが、彼はFWの主力になれる状況にあるミランを選んで移籍したのだ。むろん、シェフチェンコ放出でミランに金があることもわかったうえで、レアルとミランに揺さぶりをかけてきた。思えばレアルへ移籍した時だって、モリエンテスを追いやれる算段があったからこその選択だった。そういうことは考えられる男なのである。実際のところ、将来への上積みがない元・怪物を獲得したことは、ミランの側が「騙された」ことを示すものだろう。ファンからしてみれば、来季のチャンピオンズリーグ出場権を取るか否かよりも、チームが生まれ変わることの方が重要である。活躍してもらうに越したことはないが、ロナウドの存在は諸刃の剣でもある。メディアの注目を集めたがり、ベンチに置いておけば搦め手で情報操作を行うロートルは、チームの生まれ変わりに最も邪魔な存在になる。チームの成績云々とは別に、その点は大きな不安だ。来季の開幕前までには「インテルのお人好しのオーナー」にでも高値で引き取ってもらいたいものである。
 こっちは、最強・最高ではなく常勝をめざすアンチェロッティのやり口に、いい加減、飽き飽きしているというのに。

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 長い長い冬眠から覚め、ようやく高スポへ新たな記事を投稿。今回はロナウドのミラン移籍についての話(「ロナウド活躍は諸刃の剣に」)であります。よろしければ、どうぞ。 [続きを読む]

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
  • 三鷹牛蔵
    高スポの陰の支配者。湘南ベルマーレを愛する先天性ジャパニーズ。

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