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2007年2月10日 (土)

あんたも“勝つ野球”ができる一人前の選手よ

「ハッスル野球のレッスンはこれで一通り終わった。あとやることはどう生かすかだ。――そのための唯一の方法はバットとボールをもって――グラウンドへ飛び出し練習するだけよ。」
 ここまで見てきたように、バッティング、走塁、守備と野球の技術をひととおり説明し終えた後の最終章の書き出しだ。
(『ピート・ローズのハッスル野球教室』訳・土屋一重 報知新聞社 昭和54年3月31日初版発行)

 野球選手がやらなきゃならない最も大切なことは練習だ。試合をするのは確かに楽しい。しかしそれはうまくプレーする場合に限る。うまくプレーする楽しみは練習から生まれるものさ。

 ピート・ローズの説く練習方法は、もちろん心構えから始まる。組織だったチームではコーチが練習を組み立てるが、友だち同士で野球をするときにも、目的意識を持てという。

 まず技術の野球だ。送球も考えてやろう。外野からの送球は正確さと腕を鍛えることが目的だ。バッティングなら右へも左へも真ん中へも打てる練習をしよう。
 そして自分ができること、できないことを知って、自分にとって最もむずかしいと思える技術を補っていくのさ。自分の右に飛んでくる打球を追うのが苦手なら、ただちに打ってもらうのだ。

 そして、練習開始に当たってはウォームアップを忘れるなと説く。グラウンド内を1周ほど走り、筋肉痛を防ぐために屈伸運動などをすれば汗ばんできて体もほぐれるので、この次にキャッチボールをする。短い距離から始めて徐々に距離を広げる。腕が温まるまで少なくとも10分間は続ける。

 野球選手にとって腕を痛めてしまう――ほんとうの意味で――のは致命傷だから、痛む場合は早い段階にトレーナーにみてもらおう。痛みがどのへんなのか、どういう種類の痛みなのかを話す。トレーナーがやれることはたくさんある。
 トレーナーがいなければ医者にみてもらおう。原因が軽い筋違いの場合も多い。しかしみてもらった方がいいのだ。医者の治療が必要なこともある。
 腕のトラブルは我慢するより、注意して注意しすぎることはない。腕の痛みが、野球人生の始まる前に野球人を台なしにしてしまうことだってあるのよ。

 バッティングについても準備運動が必要だとローズは言う。鉛バットや2本のバットを振ってスイングに使う筋肉をほぐすことは、「試合に使うバットが軽く感じられ、スイングしやすい感じになるのさ」。
 打撃練習は投手から始め、控え選手、レギュラー選手と続くのがシンシナチ・レッズのやり方だという。投手は打撃練習の後にピッチング練習をし、打撃練習をしていないときの野手は守備練習をする。「避けなきゃならないことはなにもしないでブラブラする時間をつくることだ。練習中はみんな常に動いていなければならないのよ。」
 ひととおりの練習が終わった後なにをすべきか、本書の最後の一節だ。「あとがき」もない本なので、まさしく最後の言葉だ。

 さて、計画通り練習が終わった。きつい練習だった。練習がきついと疲れる。当たり前よ。だがこのときこそランニングをする絶好のときだ。
 試合のある日はピリッとしていなきゃならないのでレギュラーはランニングをしないが、控え選手は50ヤード(約46メートル)ダッシュを10本から20本、帰りは流すというやり方でやろう。登板しない投手も15本はやるのだ。先発投手はクラブハウスでリラックスすることになる。もっともクラブハウスに恵まれていればの話だけど……。
 試合のない日は全員、たとえスーパースターでも走るべきだ。
 実戦と練習は全く同じ。練習は実戦でやるようにやらなきゃ、なんの意味もないことを頭にたたき込んでおいてほしい。激しく練習して激しくプレーする。一生懸命走るのだ。ひとたびグラウンドに出たら常にハッスル。それさえできたら、もうあんたも“勝つ野球”ができる一人前の選手よ。

 珠玉の言葉に感動してもらったところで告知だ。
 私の手元にある、この『ピート・ローズのハッスル野球教室』をしかるべき人に譲りたい。

 思い起こせば十数年前、福島県郡山市の古書店にあったこの本を同僚が買ってきたのが始まりだった。社内の野球部のみんなで廻し読みしたものよ。皆がハッスル野球を頭に叩き込んでいたからこそ、2年後の豪速球エースピッチャー加入を契機に、チームは急上昇したのだった。
 しかし今や、この本は私の書棚にとどまったままで、新たな読者を獲得していない。ハッスル野球が世に広がらないという意味で、私の書棚にとどめ置くことは野球界の損失だ。いや、「ハッスルは野球だけじゃなく、世の中のすべてのことに当てはまる」という序文を思い起こせば、全人類の損失だ。この本は、新しい読者を求めている。

 本書を読みたい、ハッスルしたい、という方はコメント欄に熱いメッセージをいただければ、交渉に応じる。amazonでも新本は入手できなさそうな入手困難本とはいえ、本の状態もそれほど綺麗ではない(表紙には「藤書店 ¥500」というシールが貼ってある)し、また、上記のような野球界、人類への貢献を意図しているので吹っかけるつもりはない。メッセージが熱ければ、どんどん値下がりするだろう。
 なお、広島東洋カープの伸び悩んでいる選手については、潜在的読者と認識している。聞くところによると、マーティ・ブラウン監督はピート・ローズを信奉しているというではないか。ピート・ローズのようなハッスル・プレーを求めているというではないか。本書を読んで学ぶことがストレートに役立つ第1候補だ。彼らからの希望があれば、無償で譲るぞ(ただしその贈呈は本ブログのネタにする)。

『ピート・ローズのハッスル野球教室』
著者:ピート・ローズ
訳者:土屋一重
監修:神田順治
発行所:報知新聞社
昭和54年3月31日 初版発行

●目次
日本の皆さんへ(ピート・ローズ)
第1章 だれだってハッスルできるんだ
 everyone should be charlie hustle
第2章 スイッチのすすめ
 i'd rather switch than fight
第3章 バッティング・基本
 hitting: the basics
第4章 バッティング・つぎの段階へ
 hitting: an advanced study
第5章 バントをバカにしてはいけない
 the lost art of bunting
第6章 ゼニになる走塁
 run for the money
第7章 外野の守り
 playing the outfield
第8章 一塁手のプレー
 playing first base
第9章 三塁手のプレー
 playing third base
第10章 二塁手のプレー
 playing second base
第11章 遊撃の守り
 playing shortstop
第12章 捕手
 the catcher
第13章 ドン・ガレットのピッチング ※ローズが書かなかった章
 pitching by Don Gullett
第14章 練習がすべてだ
 practice makes perfect
わたしのピート・ローズ(土屋一重)

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『ピート・ローズのハッスル野球教室』(日本語版)
『Winning Baseball』(最初の原書)
『Pete Rose's Winning Baseball 』(原書・ペーパーバック)

■関連記事一覧
ピート・ローズのハッスル野球教室 その1
ピート・ローズのハッスル野球教室 その2
4000本のヒットを打つハッスル打撃論
ゼニになる走塁(run for the money)
ゴールド・グラブ賞の歴史を変えた守備の心得
あんたも“勝つ野球”ができる一人前の選手よ=本稿

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  • 荒木又三郎
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