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2007年8月15日 (水)

オシムは中村俊輔をどうするのか

 オシムがアジアカップで優先したのは、ファンとメディアが期待した3連覇などではなく、高原と中村俊輔をいかにチームに融合させるか、だった。欧州リーグのバカンス中に開かれたこの大会は、海外でプレーする選手を試すには格好の場であり、だからこそオシムは決勝トーナメント以降、中村をフルタイム起用し続けた。逆にいえば、高原には早々に合格点を与えたが、中村に対しては最後まで答えを見出せなかったのだろう。

3連覇より将来への準備

 思えばアジアカップの決勝トーナメントは、まさにW杯予選での身近なライバルたちとの戦いだった。最強のルーキー・オーストラリアに、常連組のサウジアラビアと韓国。口惜しい話だが、サッカー辺境の地であるアジアにあって、これほどのメンツと真剣勝負の3連戦を行うのはやはり難しい。W杯1年後ということもあり、チームの熟成度合いにこそ差がみられたものの、彼らが真剣だったのは間違いないだろう。
 しかし、この貴重な3連戦の結果は、1勝2敗。延長・PK戦を度外視すれば、1敗2分けということになる。アジアのナンバー1を自認する日本にとっては、決して満足できるものではなかったといえる。試合内容こそ、多彩で現代的な攻撃を見せたかもしれないが、3連覇がかかっていたディフェンディングチャンピオンとしての責務を果たしたとは言い難いだろう。
 ただ、オシムが確信犯だったことも間違いない。大会中にハードな練習を繰り返し、消化試合ともいえるベトナム戦でもメンバーをいじらなかった。彼が優先したのは優勝ではなく、将来に向けて今、この時期になすべきことだった。3年後のW杯本大会に向け、初めての大規模な大会を通じてチームの基礎を熟成し、ジーコ時代のスター選手(高原、中村俊輔)がそれにいかに噛み合うかを試したのである。
 むろん、この二つの条件を課しても優勝できる自信が、多少なりとはあったのだと思うが。

日本には“ベッカム”の居場所はない

 中村俊輔は、日本代表の監督にとって恐ろしく厄介な存在であり続けている。特筆すべきキックの技術を持つとはいえ、ドリブル突破ができるわけでもなく、スピードがあるわけでもない。しかも華奢な肉体は、ボディコンタクトにはまるで弱い。何より致命的なのは、チームが機能しないときほど、彼が消えていくことだ。ボールが回らなくなるほど足元でボールを欲しがり、自らは動かなくなっていく。仮に味方からボールをもらっても、決定的なパスを狙ううちにボールを奪われて自滅する。
 しかし、彼の優れたキックは、彼我の実力差や現在の戦況を問わない「飛び道具」である。チームが機能していようがいまいが、そんなことは関係ない。フリーでボールを持てれば得点に結びつく仕事をし得るし、彼がピッチ上にいれば直接FKは「決定的な武器」に変わる。とくにゴール前でのFKは、得点力不足の日本にとって、インプレーで生み出される他のすべての攻撃よりも得点率の高いものと言い得るだろう。
 だからこそ、監督の立場からすれば、中村俊輔は厄介だ。日本のレベルを考えれば彼の「飛び道具」は捨て難いが、攻撃の指揮権を委ねるには大きなリスクが付きまとう。なぜなら彼に必要な待遇とは、例えばマンチェスターユナイテッド時代のベッカムのポジションに等しい。タフな味方(キーン、ギグス、スコールズ)が自分をフリーにしてくれるため、金髪の青年は足元に届いたボールを落ち着いてトラップし、世界一のクロスを放り込めばよかった。たとえ自分が何もできなくても、キーンがミドルシュートを放ち、ギグスがドリブル突破を仕掛け、スコールズが効果的な飛び出しで、試合を決める。いうまでもないが、日本代表には彼らに匹敵する中盤は存在しないわけで、中村が求めているのはしょせん、あり得ない待遇ということになる。

リスク軽減のための「全面的な能力」

 オシムにも、そうした中村俊輔の「実力」はわかっている。だから、「今の中心選手の中には、自分にはできない、あるいは苦手なポジションがあるということだ。誰とは名前を挙げないが、よく試合を見ていれば誰について話をしているか分かると思う」と語るのだ。オシムがめざすサッカーのなかでは、彼は最高のストロングポイントであり、同時に最低のウイークポイントでもある。オシムにとっては、「最もアイデアのある選手たちは、よりスピードがあり、より多く走ることができて、選手の全面的な能力を備えて」いなければならないのだ。
 攻撃に人数をかけ、選手がスペースを見つけて飛び込んでいく現在の日本代表のスタイルは、いかんせん、攻守の切換え時に守備の手薄さを招く。選手の全体的な位置取りは左右に広がりがちとなり、守る側にとっては自然と選手が中央に集まっていく。つまり、ゴール前=中央でボールを奪われてしまうと、相手は労せずしてカウンターの好機を得ることになる。場合によっては、ボールを奪った選手の目の前には、センターバック2人がいるばかりで、相手を引き倒してでも止めにくるボランチすら見当たらないこととなる。
 しかし、サウジアラビア戦の序盤にみられたように、オシムのチームにとって最も効果的かつ理想的な攻撃は、ボランチの中村憲剛や鈴木啓太が逆サイドへオーバーラップするかたちにならざるを得ないのだ。1対1で勝てる(ドリブルによる単独突破ができる)ストロングポイントがない以上、敵陣深くにおいて数的優位をつくるにはそれこそが最も合理的な手段である。しかしそれは同時に、チームが絶好機か大ピンチかの「綱渡り」を演じている状態に他ならない。
 結局のところ、日本が攻撃的なサッカーを志向する限り、相手の速攻に対しての完璧なケアは求め得ない。1本のロングパスが、2対2ないし3対3の状況を生んでしまうことは必然的に起こり得る。このリスクを少しでも軽減するには、二の矢、三の矢として攻め上がっていく相手選手をマークし切ることが求められる。通常ならその役割を担うのはボランチであり、サイドバックであるのだが、すでに述べたように攻撃により人数をかけざるを得ない日本にとっては、そうも言ってはいられない。9番だろうと10番だろうと、すべての選手は必要に応じて自陣まで敵を追いかけなければならない。場合によっては、体を張って、たとえファウルをしてでも敵を止めなければならないのだ。
 オシムはその欠点に対し、最もボールに近い選手が身を捨てて盾となることで、完璧ではないがリスクを避けようとする。チーム結成からしばらく、選手に極端なマンツーマンを強いたのはそのためのトレーニングだったろう。つまり、オシムのサッカーは、その弱点を補うためにこそ、選手に「全面的な能力」を要求する。トータルフットボールがそうであったように、それこそが走るサッカーの絶対条件なのである。

ピンチを救えぬ者に10番の資格なし

 オシムにとってアジアカップの最大の収穫は、中村俊輔が最大の課題であることがはっきりしたことだろう。彼は、守備において不安をさらけ出し、攻撃においても「違い」を見せられなかった。決勝トーナメントの3連戦、中村俊輔はすべての試合でフル出場を果たしたが、それはオシムが最後まで「中村を見たがった」ことを意味するのだろう。例えば、韓国戦で再び巻を下げることで1トップにしたのは、中村のためのチャレンジだったのではないか。緒戦のカタール戦で試して以降やめてしまったこの陣形は、中村にとっては守備の負担が減り、それゆえにチームにとって守備面のリスクを減らせるものだ。しかしそれでも、チームが機能したとは言い難い。オシムは決断せざるを得ないだろう。
 遠くスコットランドの地で暮らす中村を呼び寄せられる機会は、そうそうない。だからこそ、3年後が本番であるオシムにとっては、現時点で彼を見極めざるを得なかったはずだ。監督としては、自らの戦術に中村がフィットできないのであれば、別の選手に彼に期待した役割を任せなければならない。また、多少の欠点があるにせよ中村を使うのであれば、そのための方法論を考えざるを得なくなる。いずれにせよ、この際は時間がオシムに味方する。仮にすでに中村を見限っていたとしても、オシムにはそのことを語る必要はない。9月のオーストリア遠征を、新たなチャレンジの場か、あるいは最後の試験場にすればいいだけのことだ。
 個人的にいえば、オシムが中村を切ることを望む。彼は、致命的にプレースピードが遅い。ボールをキープするだけの強さもテクニックもない選手に、そんな贅沢は許されないだろう(もっとも、セルティックでは許されているのだが)。例えば、リスク管理の権化であるリッピやカペッロであれば、彼にレギュラーの座を与えることはないはずだ。ロベルト・バッジオより中村が優れているはずもないのだから…。そして何よりも、チームのピンチを救えない選手に、10番の資格はないと思う。例えば1点差で負けている後半、ワタクシは中村俊輔にボールが渡るたびに、がっかりする。次の瞬間にボールを奪われる映像が、目に浮かぶからだ。果たして、あのシーンで期待を抱くファンはどのくらいいるのだろうか。

 韓国戦で途中交代した高原に関しては、オシムはグループリーグですでに合格点を与えていたのだろう。ドイツから来た「助っ人」は、自らが最も優れた日本人FWであることを証明した。現段階で、これに異論を唱えられる者はいまい。オシムも先日、最大限の賛辞を送ったところだ。12人しか選出しなかった新たな代表メンバーに、FWを一人も選ばなかったことで。
 最後に、これは希望的な推測に過ぎないけれど、オシムが左サイドでの山岸起用にこだわるのは、いずれ松井を呼ぶための準備なのだと信じたい。さらに、中村俊輔を機能しているとは言い難い右サイドに固定し続けたのも、そのためだと思いたい。高原の左右に中村、松井を並べるという陣容は、バルサに御執心といわれるオシムらしいものではないだろうか。

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
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