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2008年1月 2日 (水)

高橋大輔の大成・中庭健介の悲嘆

 1日9時間に及ぶ観戦がハッピーエンドに終わるとは限らない。昨年は高橋大輔の感動的な最終滑走ですべての苦難が覆されたが、今年は苦いエンディングだった。「スポーツは人間ドラマ」とかいう言い方もあるが、この大会に関しては、幸福な気分になって帰りたいものだ。肉体的疲労を和らげるためにも。
(2007年12月27日 第76回全日本フィギュアスケート選手権大会2日目 なみはやドーム)

 全日本選手権はマニアのイベントだ。私のようなシロートには荷が重い。テレビで放送されるのはその全体像のほんの一部分であって、それを見るだけなら問題はないが、会場に行くとなると話は別だ。軽はずみに行けば火傷をする。そのことは昨年、1日だけ観戦して痛感したのだが、今年は2日分のチケットを入手してしまった。
 なにしろ時間が長い。2日目は10時間弱、3日目も8時間弱の長丁場だ。もちろん、テレビ放送されるような注目度の高いパートを狙って見るという手もあるが、それならば会場に行く意味は薄いだろう(テレビの方がよく見えるし、必要な情報が得られる)。では、現地で観戦することの意味は何か。マニアの方々と同じような楽しみ方はできない中にあって、シロートなりの身の処し方をレポートする。……長い前置き終わり。

 12:30分頃、現地着。最寄の門真南駅は混み始めており、帰りの切符を買う列ができている。また、駅のコインロッカーはおおむね埋まっていたらしい。地下鉄駅から地上に出るとコンビニエンスストアが1軒だけあり、大混雑。私はいずれも問題なくスルー。
 会場の「なみはやドーム」は駅前至近。入場はスムーズにできる。観客の来場時間がまちまちなので、入場に手間取ることはないのだろう。中のPhoto印象は東京体育館の2階席を取り払った感じか。奥の約4分の1の座席は閉鎖されているため、本来であれば会場の中央に位置する貴賓席はリンク中央からややずれた位置になる。私の5000円のスタンドS席はバックスタンド側の中央から外れ、通路から上に昇った13列(写真のとおりの視界)。座席は布張りのもので、持参した敷物は使わなかった。リンクサイドの高額席ではパイプ椅子だったりするので、安い席の方が恵まれている。ただし氷から離れた上層部の席でもジンワリと冷えるので膝掛けは必須(さいたまスーパーアリーナの5階席とかであれば全然冷えない=まだ根に持っている)。
 初めにすべきことは、当日の滑走順を載せた紙が会場のどこかに置いてあるのでそれを入手すること。それと大会プログラム(今回は1000円)も買う。アイスショーで売っているボッタクリ物とは違って良心的な価格で、しかも各選手のショート・フリーの使用曲などといった有効な情報が満載されているので必携。
 
 そんなこんなで態勢を整えると、12:45からアイスダンスのオリジナルダンスが始まる。今年の参加者はリード姉弟だけと寂しく、あっという間に終了し、製氷作業に。
 13:15から女子シングルのショートプログラム。滑走順は抽選で決まるため、有力選手が初めから登場し得る。実際、30人のうち8人目に安藤美姫、10人目に浅田真央と注目の2人が早々に登場する。にもかかわらず、この時間に御来場の人も多く、客席は落ち着かない。
 第1グループは一般的には知名度の低い6人ではあるが、その中にあって鈴木明子の演技はスピード感があって好感度高し。彼女は夏にフレンズオンアイスに出ていたのだが、その時は「大人」な選手達に囲まれて、私には良さがよくわからなかった。しかし、この全日本選手権で現役競技選手の中に混じると、違いが見えてくる。

 その直後、第2グループが6分間練習で登場すると一気に場内は盛り上がる。後輩やら友人やらが選手に対して掛け声をかけるような、これまでのローカルっぽい盛り上がり方とは全然異質だ。浅田真央や安藤美姫がジャンプを決めると一斉に拍手が沸く。突然テレビの中の出来事になった。
 一変した雰囲気の中で登場した浅田舞は、素人目にも精彩を欠いた演技で得点が伸びない。テレビの人がローカルの人よりも下の順位になるというのも現地観戦の醍醐味の一つなのだろう。
 次いで安藤美姫。NHK杯での暗転が記憶に新しいが、そんな気配は微塵もなかった。正直なところ、今まで出た選手とは別格の趣。ジャンプはもちろんのこと、スピード、動きのメリハリが段違い。
 次。太田由希奈。安藤と浅田に挟まれた嫌な順番だが、演技の傾向が違うせいか、露骨に格差を感じさせずに済んだように思う。
 そして浅田真央。会場の盛り上がりは随一で、相変わらず子供人気が高い。多少のミスはあったものの、ジャンプは明らかに高く、ステップは軽やかにキレキレで、疾走感のある演技だ。
 会場の盛り上がりはこのときが1つ目のピークだった。この後は、案外あっさりと平静に戻った。

 第2グループ終了後は約15分の製氷作業を挟んで第3・第4グループの12人。テレビの人は澤田亜紀ぐらいか。
 マニアの間で話題になっている選手や、6分間練習で目を引いた選手に注目しながら見続ける。この辺りの選手については演技と得点の関連性がつかめずに苦労する。たぶんそれが素人の限界なのだ。
 第4グループが終わって製氷作業15分。最後の第5グループにはまた大物集結。
 
 武田奈也は意外にも子供人気が高い。浅田真央に次ぐ子供の歓声の多さ。もしかすると子供にとっては2文字の名前は呼びやすいのかもしれないが(真央ちゃーん、奈也ちゃーん)。得点は今ひとつ伸びなかったが理由は不明。確かにノリというか、勢いが足りなかったのかもしれないが、今年の彼女はそれをウリにはしていないしなあ。
 1人挟んで御大・村主章枝の登場。燕尾服風の衣装からピンクの衣装に変更し、曲の入れ方も変えていた(のだと思う。グランプリシリーズでは入れていたイントロをカットしたのでは?)。ジャンプがすべて成功したことで会場には「これで高得点」という空気が漂う。キャリアのある選手の得なところだ。実際に得点も高く、浅田、安藤に次ぐ3位につける。
 その直後に中野友加里。まずまずの演技だったように思うが、得点は4位。ドーナツスピンは誰よりもスムーズで早い。毎度のことながら、これを会場で他の選手と比較しないと認識できない私は甘いな。
 
 とかなんとか17:20頃に女子シングル30人の演技が終了。製氷作業15分を挟んで、男子シングルのフリープログラムがすぐに始まる。世界選手権ではこういうタイミングで多少なりとも時間が空いたのだが、全日本選手権にはそんな余裕はないらしい。観客も大変だが、実質的に同じ顔ぶれの審判団も大変だろうに。
 で、私はここで会場の外に出て食事をする。入場から5時間近くが経過し、座りっぱなしで腰が痛いし、会場内の温度が低くて消耗しているし、持ち込んだオニギリやチョコレートにも飽きた。この後のスケジュールを考えれば粗食ばかりでは身が持たない。

 食事を終えて席に戻ると、男子シングル・フリープログラムの第1組6人の演技は終わっていた。去年の名古屋ではこの時点で観客がかなり減っていたのだが、今回は減り方が少ない。なんででしょうかねえ? 気温が高いから夜遅くなってもいいと判断されたとか? 名古屋は地元女子選手が多いからその応援の人が女子シングルだけ見て帰ったとか?
 ともあれ第2組から観戦再開するが、ね、眠い。これは食後だからだろう。きっと多分恐らく。ふと気づくと視界に選手がおらず、反対側でスピンをしていたりする。。。。
 第2組が終わって製氷タイム。このままではイカンので気合を入れる。

 第3組の初めは柴田嶺。体つきがガッシリしたような気がする。プログラム後半での失速もなく、良い感じ。私の片目も開いた。
 次の吉田行宏が完全に私の目を覚ました。スピードとキレがある三銃士らしきプログラム。元気があって「男の子っぽい」ので、私の中での好感度は最高度に達する。やっぱ男子シングルはこのぐらい、やる気を前面に出して欲しいよな。実際には技術的な裏づけがあってこその出来映えなのだろうけど。
 目が覚めたところで、期待していた佐々木君を待つ。テレビ放送で見たジュニア全日本選手権で彼は2位ながら、最も私の印象に残った選手なのだ。シルバーメタリックの衣装で胸にはスパナとナットが描かれている。初めと終わりにロボットダンスを取り入れた、機械っぽい動きの演技。さすが特技「車との会話」、趣味「車との時間」と答える16歳だ。ジャンプのミスが複数あって得点こそ伸びなかったが、印象に残った。彼のことは「スパナマン」と認定し(南里君がしばらく「レーサー」だったように)、今後に期待したい。

 いよいよ上位6人の登場。
 今年の注目は世界選手権への出場権を誰が獲得するか。高橋大輔は安泰として、残り2枠の争いだ。昨年は2枠で高橋・織田がスムーズに出場を果たしたが、今年は枠が増え、しかも織田信成が欠場したこともあって、他の選手(小塚、中庭、南里)にとっては千載一遇のチャンスだ。
 まず小塚崇彦。ちょっと見ない間に、坊っちゃん的な風貌から多少ワルな雰囲気が出ている。反抗期? 演技は相変わらずソツがなく、ミスもなく淡々とポイントを積み重ねる。もうちょっと特徴が欲しいような気もするが、それは次の課題だろう。ショートと合わせて200点オーバーで、勝ち抜けた。
 続いて高橋大輔。他の選手との格の違いを見せつけて圧倒。正直なところ、語るべき言葉がない。内実はともかく、見ている者としてはハラハラドキドキする部分がなく、国内大会はただの通過点という風情。いや、立派になったものだ。
 さらにショート4位の南里康晴と続く。小塚、高橋の後で見るとモタツキも感じられ、苦しい感じ。転倒もあり、トータル得点が199.81と微妙。
 ジュニア全日本選手権1位の無良崇人は上位陣とは水を空けられた印象。ジュニアの大会でも今大会でも、スパナマンよりも上位なのに、なぜか印象度が弱い。2世選手がみんなそういう言われ方をするというのは問題があると思うけどなあ。

 5人目に登場するのが中庭健介。1981年生まれの中庭は男子では最年長。しかも、その次は85年生まれの選手まで誰もいない。この事実は、大学卒業後に競技を続けることがいかに困難であるかを示している。
 ショートでは2位の小塚から1.40差の3位、4位の南里には3.00差をつけていた中庭の演技は、気のせいか緊張感を持って迎えられた。注目の4回転ジャンプは成功し、場内からは大歓声が上がるものの、着氷が不安定でクリアではない。その他のジャンプでも着氷が安定しない。しかし一方で、最近にはないキレのある動きが続く。このところの中庭は年齢的にも常に背水の陣であったが、気合が空回りするのか演技は重たいことが多かったが、今大会は自身の思い入れと演技の出来がマッチしている。この出来であれば報われて欲しいと思わせる出来映えであった。
 演技を終え、キス&クライでの中庭の様子が大モニターに映される。表情が冴えない。フリーの得点は南里に次ぐ4位。画面の中の中庭がうつむく。総合得点は0.87点足りず4位。
 これはつらい。せめて南里が文句なしの演技をしてみせて、完膚なきまでに叩きのめしてくれれば救いがあったのだけど。場内にもひっそりとした唸りとも溜め息ともつかない声。

 感傷をよそに最終滑走者、梅谷英生がリンクに。地元・大阪大学の選手だけに歓声が大きい。勝手に憶測すると、彼も年齢的に、最後の全日本選手権なのではないか。衣装には見覚えがある。去年もこの衣装だった。同じプログラムなのだろうが、良いことだと思う。トップクラスの選手以外は、2年ぐらいかけてプログラムを熟成させるのも悪くない。出来も上々。(引退するのだとしたら)有終の美を飾る演技だったと思う。最終順位は6位。

 以上で本日の演技は終了。家路の遠い人、電車の混雑が嫌いな人は席を立ち始める。私は表彰式まで見る。
 22:00過ぎに始まった表彰では、1位から順に呼ばれ、先に表彰台に上る。表彰状を読み上げ、トロフィーを渡すプレゼンターはスケート連盟会長の橋本聖子。誰よりも表彰式に慣れているからか、すべてがカッコイイ。表彰状を読む低音の声、選手にかける一声、迷いのない動作。完璧。まるで宝塚スターのよう。

 そこまで見て会場を後にした。翌日も8時間コースなのでウイニングランまでは付き合わずに帰ることにする。
 我ながら足取りは重め。座りっぱなしの疲労感に加えて、中庭の無念が気分を暗くする。本来ならばそれを隠す優勝者の歓喜、優勝者に対する祝福の気持ちががさほどでもないので、暗い気持ちが支配的になる。その意味では高橋大輔の大成が恨めしくなる。
 まあ、こういう日もあるか。

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
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