シャキール・オニールという賭け
スティーブ・ナッシュが優勝リングを獲得するためのギャンブルだ。アップテンポなゲームを身上とするフェニックス・サンズにとって、機動力に欠け、故障が多いシャキール・オニール(シャック)の獲得はリスクのあるものだろう。しかし、そうでもしなければ可能性はゼロだったろう。
ナッシュにチャンピオン・リングを! 昨季の敗退時にもこう書いたが、ナッシュの年齢を考えれば無為に過ごせるシーズンはないはずだ。
何度でも繰り返す。ナッシュに優勝させたい。万人受けするアップテンポなゲームを演出し、気の利いたパスで速攻を決め、遅攻になっても自身のシュート力で得点力を稼ぐ。一見華奢に見えて闘争心溢れるファイターでもある。そして何よりも、味方選手を実力以上によく見せる(と思わせる、なのかもしれないが)能力はずば抜けている。単にポイント・ガードとしての資質だけを比較すれば、たとえばジェイソン・キッドも遜色ないのだが、キッドは味方を額面どおりに働かせるだけなのに対して、ナッシュはバブルを演出してチームを大きく見せている。これだけ楽しませてもらっているのだから報われて欲しい、と思わせる選手だ。
今季のサンズは、そのうえグラント・ヒルを獲得した。育ちのよさをうかがわせるルックスで、全米が愛したスタイリッシュなオールラウンダー。体格でもスピードでもパワーでもなく、なんでもソツなくこなすバランスのよさが持ち味で、ピッペンの跡を継ぐと思われていた彼はしかし、故障に泣かされてきた。今でもバランスのよさは健在であるものの、さすがに往年のような八面六臂の活躍は望みにくい。というより、今季のハッスルぶりを見るにつけ、「そこまでやらないでもいいから、とにかく怪我しないで」と私に思わせてしまう人間国宝級の存在になった。選手としての全盛期を当時弱小だったピストンズで過ごした彼もまた「優勝させてやりたい」と思わせる選手だ。
スパーズを応援する私でも、この2人には甘く、「もう勝っちゃいないよ」と言いたい気分もあるのだが、しかしシーズン前にサンズの補強はうまくいっていなかった。
グラント・ヒルの獲得はよいとしても、シーズンオフにサンズはカート・トーマスを放出し、インサイドの強化が課題であった。ショーン・マリオンをトレード要員にしてあれこれ画策したようだが奏功せず、結局マリオンが残留したわけだが、正直なところ優勝を狙えるような布陣とは思えなかった。
そんな中でのシャック獲得である。
巷では、シャックがサンズのバスケに適応できるのかを疑問視する声があるが、問題はそこではないだろう。
別にシャックにトランジション・ゲームをさせようとは思っていないはずだ。対戦相手や時間帯に応じて、ゴール下を強化したいときに使えればよいと考えているのではないか。
ここでまず問題になるのは、シャックがゴール下での支配力を持っているのかだ。今シーズンは故障で欠場が多いので表面化していないが、昨シーズン終盤には「シャックも今じゃ並のセンターになった」という声があったはずだ。たまたま故障で調子が悪かっただけなのか、年齢的な衰えなのか。サンズは前者であることに賭けているのだろう。
この賭けに勝ったとして、次の問題が生じる。
アマレ・スタウドマイヤーとシャックの2人で、プレーエリアを分け合うことが可能なのか。また、どちらがファースト・オプションになるのか。マイアミ・ヒートでシャックはエースの座をドウェイン・ウェイドに譲っていたが、それはウェイドがガードであったから可能だったともいえる。コービーとウェイドの違いはあっても、まあ似たようなものだから。しかし、アマレとの共存は可能なのか。偉大なるシャック様は、ゴール下では天上天下唯我独尊なプレースタイルを基本としてきた。ツインタワーのようなことは性に合わないのではないか。とはいえ、それを実現しないでアマレの長所を打ち消すのでは、補強の意味をなさない。
シャックの獲得が「確実な補強」ではなく「ギャンブル」と映ってしまうとは、時の流れを感じる。5年前であれは、どんなチームであれ、シャックがいれば優勝候補の本命たりえたというのに。
その、5年前にシャックがいたチームであるところのレイカーズは先週、パウ・ガソルを獲得して一気に士気を上げている。確かにこれは良い補強で、決してギャンブルなどではない「確実な補強」だ。サンズも本心では「取れるものならガソルがよかった」と思っているはずだ。少なくとも私はそう思っている。それどころか、「シャックよりもジャーメン・オニールがよかった」とすら思っているのだ。
こうやって虚仮にされたら、シャックは怒り狂って、面と向かっていたら張り倒されるに違いない。その怒りのパワーでナッシュにリングを取らせてやってよ、というのが今の私の願いだ。スパーズファンとしては矛盾しまくりだが。
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