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2008年5月31日 (土)

岡ちゃんの方針転換がもたらす古くて新しい課題

 キリンカップの2試合は、岡田監督本来のポリシーへの方針転換を印象付ける内容だった。FWが中盤でのプレッシングに参加し、数的優位を維持しながら速攻を狙うコンセプトは、マンツーマン依存のオシム時代とは明らかに異なる。数多くの選手をピッチに送り込み、戦術の浸透を狙った彼は、いわば賭けに勝ったといえるだろう。それはつまり、「決定力不足」という攻撃面での課題を棚上げにしたことにほかならないのだが・・・・・・。

 コートジボワール戦。ピッチに現れた11人は、大幅な変化を確かに感じさせる面々だった。海外から駆けつけた松井、長谷部はもちろん、今野や玉田にしても、岡ちゃん就任以降に先発した機会はほとんどなかったはず。オシム時代の中心選手である鈴木啓太や阿部はおらず、高原や巻もベンチに残った。
 前半をみる限りは、中盤からのタイトなディフェンスを徹底し、ワンタッチによる速攻をめざす「岡ちゃんらしさ」が感じられた。2トップが積極的にボールを奪いに行き、中盤の選手がディフェンスラインの前を固めるスタイルは、かつての日本代表では見慣れた光景ともいえる。この戦術の先にあるのはたぶん、得点力不足という課題であり、海外組の真価が問われることになる。戦術面で守備を優先する以上、攻撃では個人の能力に依存せざるを得ない。
 日本は2度ほどめだった速攻を仕掛けたが、そこにはやはり無理がある。前半5分に闘莉王が左サイドを駆け上がった場面では、大久保が効果的なダイレクトプレーをみせ、リターンをもらってフリーでシュートするチャンスにつながった。スライディングしながらのシュートは大きく枠を外れたが、序盤から十分な見せ場をつくったものだ。もう一つは先制点をもたらしたプレーで、今度は右サイドを長谷部が駆け上がり、フリーでボールを得てグラウンダーのクロスを入れる。ニアに走り込んだ大久保が囮となって、ファーに現れた玉田がゴールを決めた。
 これら2つのシーンに共通するのは、本来は中央にポジションを取るはずの選手がライン際をオーバーラップし、フリーでボールを得たこと。いわばセオリーとはいえない動きが、相手のマークを外したものといえる。つまり、主導権を握ってより効果的な攻撃を繰り出したというよりも、確固たるディフェンスを築いた中での意外性がチャンスを生み出したものだ。いうまでもないが、闘莉王も長谷部もサイドアタッカーではなく、彼らがみせた動きをよりうまくこなせる選手はいくらでもいる。実はその点にこそ、岡田監督のコンセプトの限界があるはずだ。
 守備を重視してカウンターに依存する戦術は本来、より個人の能力に頼らざるを得ない。1対1で勝てる選手がいなければ、決定的なチャンスを生み出すことは難しくなる。そのことはセリエAをみれば明らかで、イブラヒモビッチがいないインテルやカカのいないミランを思い起こしてみればよい。この2チームが、メッシのいないバルサやC・ロナウドのいないマンUより強いとは、誰も思うまい。イブラヒモビッチもカカもいない日本はしかし、セリエを見習おうとしているのではないか。日本は、中村俊輔や松井がいかにフリーでプレーするかを考えるべきなのだが、実際にはボランチやセンターバックがオーバーラップし、ドリブルやクロスといった本職ではない仕事をしないと、チャンスがつくれない。だからこそ、セットプレーにも期待せざるを得なくなってしまう。

 中村俊輔が加わったパラグアイ戦では、またも大幅にメンバーを入れ替え、むしろオシム時代に戻した印象を受けた。ここから推測されるのは、より多くの選手を使い、方針転換を徹底させるという岡田監督の意思だ。例えばボランチのポジションでは、コートジボワール戦で使った長谷部と今野を外し、鈴木啓太と中村憲剛を起用した。本来であれば、本番(=W杯アジア3次予選)を目前に控えて行うようなことではなかったはずだ。
 巻の1トップに山瀬を絡ませるやり方は、確かに右サイドへ中村俊輔を置くうえでのオプションだったのかもしれない。長身の寺田は一度試したかった選手のはずだし、右サイドバックに阿部を使ったのは、長友が果敢にオーバーラップしても残りのDF3人で守れるとも考えられる。もちろん、中村俊輔の守備への不安もあるだろうし、左利きである彼を越え、右脚で精度の高いクロスを送る阿部の姿を期待したものかもしれない(実際、試合中には中村俊輔が空けたスペースを山瀬がフォローする場面もみられた)。
 パラグアイは、南米で最も守備のいいチームだ。守備にスタミナを費やすことを厭わず、中盤から真面目にプレスを仕掛けてくる。緩慢なボール回しは彼らには思う壺で、速攻を仕掛けられずに自滅するシーンもみられた。長友のオーバーラップを生かそうという狙いは感じられたが、いかんせんプレースピードが遅すぎる。前線でポジションチェンジなどを繰り返していたが、ワントップの巻の高さを生かそうという意図は感じられず、今後に期待の持てるようなプレーはほとんどなかったといえる。
 しょせんは親善試合ということだろうが、ジャッジの影響も小さくなかった。イエロー覚悟でスライディングに来るパラグアイのプレーは、ことごとくお咎めなし。日本にしても、長友をはじめとしてかなり厳しく削りに行ってはいたが、こうした流れは日本の攻撃陣には不利である。例えば松井はファウルのもらい方を知っているが、中村俊輔は違う。本来、体格面で劣る日本人MFが欧州で生き残るには、どんなに強引でもボールと相手との間に自らの体を入れることが必要になる。上半身でも脚でもいいから入れてしまえば、単純にボールを失うことはなくなるからだ。しかし中村俊輔は、必ずしもそうではない。所属するセルティックではともかく、日本代表では往々にしてそこまでのプレーはしない。彼のなかではたぶん、相手に寄せられる前に味方がパスコースに来ればいい、ということなのだろう。結果的に、パラグアイ戦ではめだったサイドチェンジはなく、サイドで無為にボールを失う場面が増えた。

 それでも岡田監督は、キリンカップの2戦に確かな手応えを感じているはずだ。守備戦術の浸透を優先して多くの選手を試したわけで、その点では一定の成果を得たといえる。とくにコートジボワール戦での2トップは、守備に大きく貢献していた。今季CLでのマンUにも近い戦術(つまり彼ら本来の戦術ではなく、イタリア的な耐える戦い方)こそ、むしろ岡ちゃんの望むところだろう。ただし、玉田と大久保にルーニーとテベス並みの攻撃力を期待するのは酷だし、日本にはスコールズのような気の利いたベテランもいなければ、C・ロナウドのような「とっておき」もいない。先にもいったように、チームが成熟するにつれて攻撃面の課題はクローズアップされていき、スポーツ紙には「決定力不足」の見出しが躍るだろうが。
 岡田監督はまた、選手層を広げられたと考えているに違いない。うまく機能していたとは言い難いが、2試合を通じて興味深いプレーをみせた長友は、大きな収穫だった。ボディコンタクトを恐れぬ突進は多くの日本人選手が見習うべき点で、チームを去った加地の不在を忘れさせるだけの頼もしさを感じた。内田と長友を両翼に使えれば、岡ちゃん好みの戦術により近づける。加えて、パラグアイ戦で寺田=闘莉王コンビが無失点に抑えたことも見逃せない。実際は、長友の裏をカバーする寺田がさんざん振り回されたわけだが、だからこそ結果は重要だ。そもそもセンターバックの層の薄さはウイークポイントだったわけで、仮に阿部をカウントするにしても、闘莉王はケガがちだし、水本の抜擢を失敗したことも記憶に新しい。個人的には、岡田監督が最終的に3バックを選択すると思っているので、その意味でも満足する結果だったのではないかと思う。

 ただ、3次予選の4連戦に向け、岡田監督が最も苦慮するのは、フィニッシャーの不在だろう。彼はきっと、守備面が機能すればアジアでは十分何とかなると考えているはずだ。だからこそ、現状には頭が痛いだろう。
 みている限り、大久保や山瀬の得点力に期待しているようだが、彼らの決定力が高いとはどうしても思えない。2人ともシュート数は多いものの、そこにゴール数が比例しないタイプであり、岡ちゃんのめざすサッカーには厳しいのではないか。一方、むやみやたらにスランプが指摘される高原は、少々気の毒に思えてきた。彼はボールに多く触れることで活きる選手であり、ポンテ不在の浦和に入ったのは失敗だった。パラグアイ戦のわずかな出場時間からは、自分が描いたビジョンどおりにプレーする余裕がないように感じられた。巻と矢野については、ポスト役こそが求められている仕事であり、そもそも得点を期待されているのかどうかが疑わしい。守備をし、ポストになり、さらに得点をしろというのは、やはり無理がある。昔から、岡ちゃんはそんな節があるわけだが。
 いずれにせよ、誰がエースなのかはハッキリさせる必要があると思うのだが、いかがなものだろう。この段階からジュニーニョに期待しているなんてのは、カンベンしてほしいのだが。

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
  • 三鷹牛蔵
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