藤田俊哉の存在感に感服
藤田俊哉の1トップという窮余の策がズバリ当たった形だ。それはそれは素晴らしい出来映えだった。ゲーム序盤にラッキーパンチが当たったという言い方も可能だし、湘南の不出来を指摘しても良いのだが、序盤に熊本が見せたサッカーはなかなか魅力的だった。
(2009年6日3日 湘南ベルマーレ3―3ロアッソ熊本 平塚競技場)
ロアッソは、メンバー表では西弘則と宇留野純の2トップで、藤田俊哉はMF登録だったが、実際には1トップだった。藤田は高い位置から始動し、ボールサイドで起点になったり、ファーサイドに流れたり、ジャーンを引き連れてFWの2人のためにスペースを作ったりしていた。ここまで7試合で勝利がないということで、小森田友明をCFにした3トップをあきらめたということだろう。熊本の監督はこの日の布陣を0トップと称している。
そのロアッソの攻撃陣を湘南DF陣はつかまえきれず、藤田がフリーでボールを受けるシーンが何度もあった。どう考えても最も警戒すべきキーマンなのに。
熊本の先制点は、藤田が下がってボールを受け、右前方の西弘則にパスを通し、そこから西の放ったシュートがファーポストに跳ね返ってゴールインしたファインゴール。注目すべきはそのときの藤田の動き。パスを出した後でファーサイドにフリーで走りこんでいたので、跳ね返りの角度によっては押し込めたし、西がシュートではなくクロスを選んでもターゲットになりうる位置にいた。
熊本の2点目はさらに見事なもの。ボールサイドとファーサイドの2か所で熊本の選手が交差し、湘南DF陣の組合せをずらした。そのうえで、いったんファーサイドに逃げた藤田がゴール前に飛び込んだところにクロスが入り、藤田がジャーンに先んじてボールにさわり、そのパスを受けた西が押し込んだ。
この2点目が前半18分。ここまでの熊本は背水の陣だったのか、果敢で思い切りが良かった。
この後、湘南もペースを取り戻して田原豊のポストプレーから寺川能人のゴールが決まって1点差とするが、前半終了間際に熊本はカウンターのチャンスをつかみ、藤田が決定的なシュートを放つ。これは辛うじてCKに逃れたが、このCKから熊本の3点目。ジャーンがマークする相手を放したらしい。
ここでハーフタイム。熊本にとっては理想的な前半の試合運び。2点取った後は勢いが失われていただけに3点目が大きかった。
後半は、熊本にとって耐える時間だったが、55分にFW木島良輔を前線に投入したのは誰もが納得の采配だろう。スピードのある木島に最前線でかき回す役目を与え、藤田を2列目に下げた。この後の藤田がまたニクかった。いやらしい位置取りで湘南のパス回しを阻害し、チームがボールを奪うとすかさずフリーになってボールを引き出し、カウンターと見るや後詰の役を果たした。
結果的に湘南が同点に追いついたのだが、熊本の選手達の後半の疲弊っぷりを考えれば、逆転を許さなかったことは評価できる。要所要所で藤田に唸らされたが、この日の熊本は、藤田だけでなくチーム全体に好感度を上げるオーラが漂っていた。立ち上がりから積極的だったし、守備の選手達も湘南の細かなパス回しに懸命に食らいついていた。課題は、この日のようなゲームを続けられるかだろう。序盤の2点は鮮やかではあったが、あのような「練習どおり」のプレーであってもゴールに繋がらないことはある。そのときに崩れずに続けられるか。それに、この日の湘南は藤田1トップという「奇襲」に面食らっていたが、この後の対戦チームにとってそれは織り込み済みだ。そういった懸念材料はあるものの、ロアッソの前途に明るいものがあるように思えた。
対する湘南については何と言ったらよいのか。
確かに褒められた内容ではない。直前の雨でスリッピーになったピッチを気にしている気配があり、そのために無理な踏ん張りを避けているように見えた。挑戦者のガムシャラさはなく、何人もの王様が「とりやすいパスをくれ」「そのほう、シュートしてみよ」と言っているような錯覚にとらわれた。
そういう観点での非難は常に有効でありうるのだが、チームがステップアップしていく過程では、闇雲なガムシャラさだけでなく、状況に合わせたクールヘッドな落ち着いたプレースタイルも身につける必要があると思う。それゆえ、この日のゲームで批判的になりすぎないようにしておこうかなと思う。なんか、誰よりも私自身が慢心しているような気もするが。
でもほら、中村祐也が代表して鞭を受けたんだから、今日のところはもういいじゃん。とりあえず。
【キャプテンマーク予想ゲーム】
2巡目は田村→坂本→ジャーン→寺川→野澤→臼井→中村→アジエルときた。次は山口か。
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