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2010年7月 3日 (土)

フィジカルで守る王国の自滅~オランダ対ブラジル

 あのブラジルをクライフがボロクソに言うのは当然だ。センスではなく体力と勤勉さで守る彼らに、王国を名乗る資格はない。自殺点と退場による自滅は、彼らが取るべき責任の大きさに十分見合うものだろう。対するオランダにしても、幸運な勝利を得たことは間違いなく、ブラジルの鼻っ柱を折った74年のチームには到底及ばない。スペクタルなサッカーをリードしてきた両雄の対戦がこの程度とは・・・・・・。あんまりだ。

 ブラジルの守備は本来、先のプレーを読めるセンスによって形成される。ところがドゥンガの構築したチームは、頭ではなく体でプレーしてはばからない。雲霞のごとくボール保持者に群がり、センターサークル付近にもかかわらず背後からファウル覚悟のプレッシングを仕掛ける姿には、王国の誇りを露とも感じなかった。
 サッカーに勝敗以外の価値基準がないのであれば、前半のブラジルは確かにパーフェクトだった。オランダには、右サイドに張り付くロッベンが縦に仕掛ける以外は武器がなく、まったく無力だった。両サイドいっぱいに開く彼らの攻撃スタイルはむしろ、複数の選手でボール保持者を囲い込むブラジルには好都合だったといえる。早めのケアはオランダのサイドバックにオーバーラップを自重させ、厚みのある攻撃を生み出せない。逆にブラジルは、中盤の密集地でショートパスをつなぎ、サイドに開くロビーニョらに無難にパスをつないでいく。中央をこじ開けたり、あるいは中央に作為的にスペースをつくるような攻撃をしていたとは言い難いが、それでも守備に不安を抱えるオランダを脅かすには十分だった。
 先制点は、ハイティンハのミスによってもたらされた。センターバックとしての資質に大いに問題がある彼は、先制されるまでの10分間にもたびたびロビーニョをフリーにしている。彼の迂闊さはオランダの抱える欠点の1つで、スロバキア戦でもオフサイドトラップを掛け損なうなどミスがめだっていた。とはいえ、オランダにろくなセンターバックがいないのは今に始まったことではなく、スタム以降、ワールドクラスは出てきていない。
ファンマルバイク監督はそれを承知のうえで守備の戦術を構築していると思うのだが、ブラジルはその隙を見逃すほど甘くはなかったということだろう。
 早すぎる失点はしかし、オランダにかなりの混乱をもたらしたと思う。交わされるのを恐れてボール奪取へ行けない中盤は、徐々に自陣へと押し込まれていく。前半の主導権を握っていたのは完全にブラジルで、攻めなければ持ち味が出せないオランダは、明らかに怯えてしまっていたと思う。

 ところが、たった一つの失策で風向きは変わってしまった。後半8分のオランダの同点弾は、事故以外の何ものでもない。スナイデルのキックはゴール前への凡庸なクロスだったのだが、フェリペ・メロとGKジュリオ・セザールが交錯し、自殺点となってしまう。どちらかが相手に任せていれば、どうということもなかったろう。
 この1点でブラジルはしかし、見苦しいほどに慌てた。それはたぶん、隙のない守備で楽な試合ばかりして来たツケなのだろう(消化試合だったポルトガル戦を除き、彼らは常に先制してそのまま逃げ切っており、追いつかれたのはこれが初めて)。ドゥンガ自慢の守備網は綻びを見せ始め、選手は苛立ちを隠せない。しかもドゥンガは、なぜか左サイドバックのバストスを下げてジウベルトを送り出すという愚行に出る。仮に、バストスが前半にイエローカードをもらっていたからなのだとしたら、それはあまりにも消極的だろう。得点を狙いに行くべき展開で、ロッベンを止めるための手当てをするなどあり得ない。ピッチにいた選手にとっても、攻めに行くべきなのか同じやり方を続けるべきなのか、判断に迷った者もいただろう。
 決勝点は、そうしたなかで実にあっさりと生まれてしまう。コーナーキックをニアにいたカイトが後ろにそらせ、これをスナイデルが難なく決めた。素晴らしいゴールとは到底いえないし、冷静に考えれば守備を崩されたわけでもないのだが、ブラジルの狼狽は加速していく。スコアを振り出しに戻すため、右サイドバックのマイコンが積極的にオーバーラップを仕掛けるが、それがまた守備のバランスを崩す諸刃の剣になっていく。そして、序盤からロッベンに手を焼いていた左サイドは、決勝ゴールからわずか5分後についに破綻してしまう。ロッベンを引き倒したフェリペ・メロが、さらに太腿を踏みつけてまさかの一発レッド。今大会屈指の好カードは、全く不必要なプレーから試合の行方が決定してしまった。
 リードされ、さらに人数まで減らしたブラジルには、これを跳ね返す力はもうなかった。パワープレーにうったえるでもなく、ドゥンガはなぜかファビアーノをニウマールに代えてしまう。勝負どころで切れる札がないのはパラグアイ戦の日本と同じであり、しかも交代のカードを余して負けたことは、ドゥンガが延長まで考えていたことを物語るのではないか。

 結果だけをみれば、王国らしからぬブラジルにばちが当たったといえるかもしれない。今大会の彼らは、攻撃の凄まじさではなく、明らかに守備の堅固さで自信を得ていた。カウンター時の飛び道具であるカカは不発だったし、ロビーニョは相変わらずチームのためにはプレーしない。オウンゴールで追いつかれ、無駄なプレーで退場者まで出しての敗北は、単なる自滅である。その姿は守備的なチームが陥りがちなもので、今大会のイタリアやイングランドにもダブった。
 とはいえ、オランダにとっても運良く勝った試合に過ぎない。ファンペルシーはまったく基点になれなかったし、ロッベンが間に合っていなかったらと思うと、空恐ろしい。2得点は自ら仕掛けた攻撃で実ったものではないし、正直、あそこまでプレッシングに行くのにびびってしまうとは思わなかった。底が知れたというか、ある意味、その姿はアルゼンチンと戦ったときの韓国に重なった。王国ブラジルを完膚なきまでに叩き潰した36年前のチームとは、比較にもならない。

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
  • 三鷹牛蔵
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