ロンドン五輪の男子バスケ展望
アメリカが連覇を果たすのかが最大の注目だ。スペインの評価が高く、アメリカを凌ぐという声も聞かれる。それでも私はアメリカが勝つと予想するし、それを望んでもいる。決してミーハー気分で言っているのではない。
スペインは「打倒アメリカの一番手」なんかではない。「アメリカと並ぶ優勝候補」である。
昨年の五輪予選を兼ねた欧州選手権では、スペインは他チームをまったく寄せつけずに優勝した。そして、ヨーロッパのレベルの高さは、7月上旬に行われたオリンピック世界最終予選で、ヨーロッパ3位のロシアがアメリカ大陸3位のドミニカ共和国に圧勝したことからも伺える。
そうした間接的・相対的な評価ではなく、メンバーを見ても強さは明らかだ。
特に、ガソル兄弟とセルジ・イバカから成るインサイド陣は強力で、アメリカの3人(タイソン・チャンドラー、ケヴィン・ラヴ、アンソニー・デイヴィス)と比べても分がある。バックコート陣を見ても、得点力のあるファン・カルロス・ナバーロとルディ・フェルナンデスが並ぶ。
昨季序盤のNBAでアメリカ国内に名を売ったリッキー・ルビオは欠場するが、ホセ・カルデロンは健在だしビクトル・サダもいる。というか、ナショナル・チームにおけるルビオはイマイチ機能していない。欧州選手権では散々な出来だった。彼の不在はそこまで致命的なことではない。
アメリカとの比較でいうと、スペインのチーム作りは王道を行っている。強力なセンター陣を軸にしながらアウトサイドにシューターを配している。バランスがよい。
対するアメリカは、センター陣がサイズ面で劣るうえ、ピュア・シューターもいない。多数のスーパースターはいるが、彼らのポジションは似たり寄ったりだ。チーム作りのセオリーには反している。
スペインが史上最強といってもよい充実ぶりを示しているので、「今回はスペインがアメリカを破るのでは」と予想する人がいるのも不思議ではない。そうなっても何ら不思議はなく、「意外性」や「サプライズ」を期待してアメリカの敗北を期待するのはナンセンスである。
そうしたアメリカの不安要素を織り込みつつ、私はアメリカの優勝を予想する。根拠はコーチKの存在だ。
アメリカのヘッドコーチを務めるマイク・シャシェフスキー(Krzyzewskiという綴りが難しいので「コーチK」と呼ばれる)は、2006年の世界選手権(@日本)では準決勝でギリシャに敗れたものの、2008年の北京五輪と2010年の世界選手権(@トルコ)ではチームを優勝に導いている。
コーチKは、自チームのロースターのいびつさ・弱点を自覚し、その中で勝つためのチーム作りを成功させてきた。それは今回も可能だと思える。
アメリカの強みは運動能力の高さだ。インサイドの劣勢を高さ以外の要素で覆すことができる。ローポストでガソル兄弟の1対1を止めることは難しいので、彼らにボールを入れさせないディフェンスを志向するはずだ。そしてそれは鬼カバーリングを必要とするが、アメリカの選手たちにはそれが可能だ。
能力面からみて可能というだけでなく、メンタル面からも可能だ。コーチKのチームではスター選手が傲慢にならない。それどころか謙虚である。そうでなくてはディフェンスで走り回ることはできない。
もちろん、コーチに尻を叩かれなければやらない、なんていう選手はトップスターたりえない。問題は、選手を正しい方向に向けられるかだ。ダメなときのアメリカは、責任感が空回りしてシュートセレクトが悪くなる。その部分にコーチKの手腕があるのだろう。
ともかくアメリカは、ビッグセンター頼りの戦い方をしない。セオリーには反するし安定感にも欠ける。しかし一方で、平面的な動きの速さ・多さを強みとするゲーム運びは極めて魅力的である。
魅力的なだけでなく、最新のルールにもマッチしている。つまり、「3ポイントラインの50cm後退」と「ノー・チャージ・セミサークル・エリアの新設」という2010年からの新ルールはアメリカの追い風になる。単にNBAのルールに近づいたというだけではない。3Pラインの後退はすなわち「守るべきエリアの拡大」であって、動きの質量があるチームにとって有利に働くだろう。
具体的にはレブロン・ジェームズが注目だ。たぶん彼は「4番」のポジションでプレーする時間が長くなるだろう(一連の練習試合を見ていないので外していたら恥ずかしいが、たぶん最後にはそうなる)。そしてそのプレースタイルは古典的なパワーフォワードではなく、内へ外へと動きの多いものになるはずだ。
チームの浮沈のカギを握るのはケヴィン・デュラント(とコービー・ブライアント)。彼らが淡々とジャンプショットを決めてくれないと苦しくなる。
ここまでスペインとアメリカにしか触れていない。標題に偽りありだ。あんまりなので他の国について。
メダル争いに食い込んでくる筆頭はブラジルだろう。ネネ、バレジャオ、スプリッターのフロント陣はスペインに次ぐ。潜在能力は高いので、それを発揮できるかどうか。
五輪予選を兼ねたFIBAアメリカで優勝したアルゼンチンは、さすがに下り坂だ。スコラ兄貴とジノビリ様がいまだに中心というのは苦しい。まあ、この4~5年、同じことを言われ続けているのだけど。昨年もホームとはいえブラジルを破ってタイトルを手にしたあたり、依然として抜け目ない。ということで、応援してしまう。
ヨーロッパで2位だったフランスは、ジョアキム・ノアの離脱が痛い。メダルは難しいだろう。
むしろ3位だったロシアのほうが昇り基調だ。モズコフは相変わらずパッとしないようだが、キリレンコはエース待遇を与えられれば機嫌よく好プレイをしてくれるし。
個人的に注目しているのはチュニジアの217cmのセンター、メジュリだ。昨年のアフロバスケにおいて、彼は圧倒的なプレーでMVPになった。低く見積もってもイー・ジャンリン(中国)よりも優れた選手に見えた。
問題はアフリカのレベルをどう考えるかだったのだが、7月上旬の世界最終予選でナイジェリアが出場権を獲得した。倒した相手がリトアニア、ギリシャ、ドミニカ共和国という面々であれば、侮れないことがわかる。
こうなってくると、アフリカMVPが世界でどのくらいやれるのか、注目だ。
ええと、アジア代表? 中国ですけど何か? いや、彼らが悪いのではなく他の国々がだらしなかったんでね。イランのことだ。日本は論外。。。。
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