取り損ねたタイムアウト・つかみ損ねたアジアのタイトル
残り1分8秒、イラン49―51日本で2点リードの場面で日本ベンチはタイムアウトを取りかけて、やめた。采配ミスとも言い切れないが、あの場面では取るべきだったと思う。誰も非難はしないだろうが、鈴木貴美一ヘッドコーチ本人にとっては悔やまれるのではないか。
(2012年9日22日 第4回FIBA ASIAカップ決勝 イラン代表53―51日本代表 大田区総合体育館)
前半終わってイラン30―23日本であった。両チームともにディフェンスが堅かったとか、辛抱合戦とか言うべきなのだが、素人感覚では煮え切らないゲームという印象だった。
日本は、イランの214cmのセンター、アルガヴァン(#15)とのマッチアップで桜木ジェイアールが優位に立ち、第1クオーター残り7分、6分と立て続けにファウルを誘ってベンチに退けた。第2クオーター残り4分余りでコートに戻ったアルガヴァンだが、3分、2分とさらにファウルを犯して4ファウルになり、再びベンチに下がった。
相手の最長身選手をファイルトラブルに追い込んだ割に、日本はインサイドを攻められなかった。1対1をうまく守られたせいもあって、徐々にボールが入らなくなっていた。苦し紛れに中に入ってボールを奪われて速攻に持ち込まれる場面が痛く、それで7点差になった。。。。と現地では思っていたのだけど、スタッツを確認してみたら、Fast Break Pointsは試合を通じて2点しかない(ちなみに日本は0点)。ターンオーバーからの失点が2回あってイランがノったので印象的だったのだ。
日本はリードされたとはいえ、ねじ伏せられていたわけではないし、それなりに戦えていたのでノーチャンスという印象ではなかった。地力ではイランが上回っている印象ではあったが、外からのショットが決まり出せば打開できそうな感触はあった。
後半第3クオーターになると、PG桜井良太が急に好プレイを連発し始めた。竹内公輔へのアシストを手始めに、フリースローレーンちょい後ろのトップの位置からジャンプショットを決め、右サイドからドリブルで切れ込んでダブルクラッチ気味にゴール下をすり抜けてバックシュート(といってよいかな)を決めた。これで1点差に迫り、イランベンチはタイムアウトを取った。
その後イランが2点取って一息ついた(後半になって5分弱無得点だった)ものの、残り4分半に桜井のアシストから金丸晃佑が3ポイントを決めて同点。さらに2分42秒のところでも桜井から金丸へと渡って3ポイント。1分54秒にも金丸のスリー。結局金丸は第3クオーターだけで11点をあげ、チームも4点のリードを奪った。
そして第4クオーター。
残り8分48秒、4点ビハインドの場面でイランは4ファウルのアルガヴァンをコートに戻した。勝負の時間帯である。そしてイランはそれまでのマンツーマンから2-3のゾーンへとディフェンスを変えた。このゾーンディフェンスは日本対策というよりは、アルガヴァンを守るための措置だと思う。
どう考えても4ファウルのアルガヴァンは狙われるので、コンタクトプレーに晒されないように2-3の中央に置いたのだろう。日本はペイントエリアの中に侵入するプレイはあまりできていなかったし。それに、第3クオーターの日本の攻勢は竹内がオフェンスリバウンドを2本拾ったことも大きかったので、インサイドを固めることに意義はあっただろう。
でまあ、この後は一進一退でゲームは進んでいたのだ。
そして問題の場面。
イラン49―51日本で残り1分8秒で時計が止まった。竹内のファウルでイランにカウント1スローが与えられた場面だ。イランベンチはこのフリースローの前に#15アルガヴァンをベンチに下げて#9ジャファルアバディをコートに入れた。この交代は同ポジションではなく、イランがやり方を変えようとしていたのは明らかだった。マンツーマンに変えることはもちろん、ことによったらオールコートプレスで当たってくることも考えられた。
この場面で日本の鈴木HCはいったんはタイムアウトを請求したが取り消した。
その後はイランが1スローを沈め、エンドラインから攻めた日本はマンツーマンのイランに対して良いショットを打てず、残り41秒1点リードのディフェンスで3ポイントを決められて逆転を許し、残り19秒間で得点できずにゲームは終わった。
【後記】いろいろな記事やコメントを見ると、イランの守備形態について自信がなくなってきた。私が認識していたよりも長い時間に2-3ゾーンを敷いていたみたいだ。でも15番の「いる・いない」で守備のニュアンスが変わっていたのは確かだから。
私はあの場面ではタイムアウトを取るべきだったと思う。状況を整理して、マンツーマンに対する攻撃について指示をするべきだったと思う。
タイムアウトの残りは2つ。残り時間を考えれば2回必要になる可能性も考えられるし(実際に必要になった)、相手の出方を見てから確実な指示をしたいということも、リードしているのだから相手選手に考える時間を与えたくないという考えもありうる。
それらにも一理あるけれど、たぶん鈴木HC自身が反省していると思う。私が同じ立場だったら痛恨事だと考えるだろう。タイムアウトを使い切るシチュエーションというのは追いつかれたり逆転されたりする場合だろう。ならば追いつかれるよりも前にリードを広げるためにタイムアウトを使うべきだったろう。そちらのほうがアグレッシブな考え方で、試合を落としたときに後悔しない考え方のはずだ。
だいたいが、国際ルールの場合、タイムアウトを余らせることはよくあるけど、足りなくなることなんて滅多にない(釈迦に説法もいいところだが…)。足りなくなったらなったでいいじゃん。刀折れ矢尽きた感じで。
でまあ準優勝に終わったのだけど、アジアのタイトルを取る惜しい機会を逃してしまった。
オリンピック後の中途半端な時期だし、大会自体の位置づけも不明瞭だし、そもそも日本も全力で勝ちに行った大会ではないのだけど(行けなかった?)、それでもタイトルはタイトルなのでチャンスをモノにしたかった。
もちろん収穫はあった。若手選手が経験を積めたこともそうだし、ベンチワークが(件のタイムアウトを除いて)納得感のあるものだったのも日本にとっては意義がある。そして、それら以上に印象的だったのは桜井良太が大会ベスト5に選ばれたことだ。
今大会の日本のメンバーで、「代表常連組」といえるのは桜木、竹内、桜井の3人だった。桜井がその中に入っていることは意外だったのだが、彼をPG起用したので少し納得した。「隠れ若手枠」ということで。
潜在能力を認められながら使いどころの難しい選手であった桜井は、以前からPGへのコンバートが模索されていて、所属チームでは実際にPGでゲームに出ていた。194cmの大型PGといえば聞こえは良いが、実際には「ボールを運ぶSG」という感じに見えた。
それが、この日はフロアリーダーの顔をしていた。前半はファウルトラブルでベンチにいる時間が長かったが、後半の追い上げは桜井が作り出したと思う。ショットを決めただけでなく、半速攻みたいな場面でドリブルで突進してファウルをもらったシーンのような「らしい」場面もあり、桜井ファンとして、見ていて満足できた。
実は私は桜井のPG転向については諦めていたので、この日の内容はかなりのサプライズだった。ということは、桜井と並ぶ「使いどころが難しいPG転向組」である藤吉佐緒里も、もしかして可能性があるのかも、と藤吉ファンでもある私としては希望をもった。←締めがそれか!
※大会そのものと、新しい施設である大田区総合体育館については別途感想を述べます。
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