ヴァンフォーレ甲府はJ1昇格にふさわしい
あそこまで戦術ダヴィだとは思わなかった。前回対戦時と比べてみると、J2にアダプトしたことがうかがえる。その対応力、適応力こそがJ1昇格を実現した原動力だろう。
(2012年10月14日 ヴァンフォーレ甲府2―2湘南ベルマーレ 山梨中銀スタジアム)
シーズン開幕当初の甲府は、違うメンバーで、違うサッカーをしていた。
最前線にはダヴィと高崎寛之という長身コンビを並べて高崎のポストプレーを企図していた。サイドハーフの選手も高い位置取りでウイング的なプレーをしきりに見せていた。周囲の選手がチャンスメイクに参加するウエートが高く、ダヴィに求められていたのはストライカーとしての役目だった。
6月頃まではそんな形だったが、どうも城福浩監督は高崎を諦めたようだ。ダヴィの相方を試合ごとに変え始めた。私の目には永里源気が一番フィットしているように見えたのだが、甲府首脳陣はそれで満足せずフェルナンジーニョを獲ってきた。最終的にダヴィとフェルナンジーニョの2トップになったのだが、このコンビはさすがに強力だった。
前線の組合せを変えたことに連動して、後方の配置も変更した。当初、4バックの中央は山本英臣とドウグラスの2人を組ませていたが、ここが激変した。盛田剛平と津田琢磨の2人を中心にして、山本をボランチの位置に上げた。この山本のポジション変更が肝だろう。
それまで2ボランチは保坂一成や伊東輝悦あたりを中心にしていたが、山本が明確な軸になった。最終ラインの安定感ということでいえば山本を前に出すのはマイナスだと思う。それをあえて行ったのは、中盤の守備に「重し」が欲しかったのか、あるいは前線に向けてパスを出せる選手が欲しかったのか。
で、この日の湘南戦を見て感じた、戦術ダヴィの徹底ぶりについて。
目立ったのは両SHの位置取りの低さだ。右の柏好文は、前回対戦時にはキレキレなドリブルで再三チャンスを作り出していたのに、今回はあまり目立たなかった。左の井澤惇も低い位置にとどまったままで、前半などは存在感がほとんどなかった。
これは前方のスペースをダヴィに使わせるためだろう。甲府はボールを奪った瞬間に前方のスペースにダヴィを走らせるが、このシンプルなやり方が最も脅威になる。遅攻になった場合でも、後方でパスを回しながらダヴィの走り出しに合わせるのを狙っている。ダヴィにボールを持たせさえすればチャンスになる。湘南は常にダヴィに対して2人で対応するようにしていたが、それでも四苦八苦という印象だった。
両SHがあまり上がらないため、守備は4-4の2ラインを敷いて密度を高められる。2CBはさほど強力ではないと思うが、サイドは2人で守るのだし、2ボランチがきっちり守れば、その密度の高さを打破するのはJ2チームには難しい。甲府サポには不評だったが、三浦俊也の教えが生かされたんじゃないの?
湘南は前から守ろうとしていたが、仮に下位チームががっつり引いてスペースを消す守り方をしても、その場合にはフェルナンジーニョのキープ力、ドリブルが生きてくる。ダヴィと2人で攻撃の形を作れる。でなくてもSHの選手と合わせて4人で攻め切れる。そりゃJ2チームにとっては分が悪かろう。20試合負けなしもまったく不思議ではない。
シーズンの中での対応だけでなく、試合の中での城福監督の対応力も昇格に寄与しているのだろう。この日のゲームでいえば、56分にCBの津田を交代させたことだ。
前半から湘南のFW陣、キリノと大槻周平がハイボールの争いで妙に勝率が高いなとは思っていたのだ。後半になってピッチが逆になってすぐにわかった。津田が狙い目だと。キリノとのハイボールの争いで、津田はキリノの両肩に手をかけて引き倒していた。その後の湘南の2点目はタイミング的に対応が難しかったのだが、津田の目前でキリノがヘディングを決めたものだ。
そうして私がウキウキしていたところ、城福監督は津田に替えて石原克哉をピッチに送り込み、山本を最終ラインに下げたのだった。リードされていたので攻撃的な選手を投入したんだ、というのが普通の解釈ではあるが、違うように思える。普段のJ2チームならいざ知らず、この日の湘南に対しては無理だと判断して信頼度の高い山本に任せたように見えた。ともかく、攻撃にも守備にも好影響をもたらす交代策、対応力で、うなった。
その後、なんだか怪しい判定でPKを得て同点に追いつくと、甲府の選手たちは主審にも適応した。ホームコートアドバンテージの存在を踏まえて、ペナルティエリア内の落下地点にいた湘南の選手を突き倒したり(会場の空気に対応した主審氏についても言及すべき?)。
甲府の「対応力」「適応力」はサポーターにも浸透していて、昇格の決まった試合後の監督や選手たちがインタビューを受けているそのタイミングに、少なくない数のユニ姿の人々が競技場を後にしていた。さすが昇格慣れしているサポーターは違うね。
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コメント
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いつも楽しく拝見させていただいてます。
記事の独特な世界観などすごく勉強になっています。
また遊びに来ますね。これからもよろしくお願いします。
投稿: Tim Duncan ティム・ダンカンブログ | 2012年11月 2日 (金) 16時05分