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2019年11月17日 (日)

『一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート』(上原善広著)を読んだ

 やり投げの日本記録を1989年から30年にわたって保持している(いまだ更新されていない)溝口和洋のドキュメント。「全身やり投げ選手」という著者による紹介は的確だが、ストイックといってよいかは意見が分かれるだろう。そこが面白い。

 
 最初に述べると、著者の上原氏が執筆しているが、溝口の一人称語りになっているという、異色の本である。
 しかし、著者がそうする気持ちもわかる。溝口の語っていることを三人称で誰かが語っても、信憑性も説得力もないと思う。そのぐらい突き抜けている。
 
 第1章は少年時代や、やり投げを始めた頃の話である。次いで第2章では早々にこう言う。
「やり投げのトレーニングと技術について語ることは、そのまま私自身を語ることと同じになる。私にはこれまでコーチもいなかったし、師事した人もいない。やり投げこそが、人生の師だったからだ。
 やりを握ったことのない人は、話の内容が理解できないと思うかもしれないが、これから話すことは、世界トップでも一部の人間にしか理解できない。」
 そして第2章では自らのトレーニング法を語るのだが
「ここからはやや専門的なトレーニングになるので、次の章にとんでもらって構わない」
と。いや、ここを読まないとこの本を読む価値が半減なんですけど。
 
「私のトレーニングは、ウェイト(ウェイト・トレーニング)が100%で、あとの走・跳のトレーニングは付け足しに過ぎない。投擲練習を入れて、大体120~140%のトレーニングを自分に課した。
 この100%というのは、全日本レヴェルの選手の3倍以上の質と量がある。例えば、12時間ぶっとおしでトレーニングした後、2、3時間休んで、さらに12時間練習することもあった。これだけやってようやく人間は、初めて限界に達する。
 ただしこれは全て、ウェイトだけの時間である。」
「どう考えても無理な話だ。しかし、日本人がやり投げで欧米人とまともに闘おうと思うこと自体が土台、無理な話なのだ。」
でまあ、約30の種目を1週間で2回まわすというウェイトをはじめ、各トレーニングメニューについて細かく語る。
 なんか読んでいてクラクラしてくる。一緒に練習していた大学生が泣きだすというが「可哀そう」と言いたくなる。結局、京産大で溝口の練習メニューについてこれた学生は1人だけで、後に練習パートナーになったというし。
 
 第3章では、ソウル五輪での挫折を挟んで、やり投げの技術的な側面や道具について、自らの工夫を語り始めるのだが、すぐに「ここからはまた専門的な話になるので、次の章に読み飛ばしてもらって構わない。」
 だーかーらー、ここを読まないと(以下略)。
 
 その後はIAAF(国際陸上競技連盟)のグランプリシリーズに参戦し、日本記録、さらには「幻の世界記録」を出す。それを語りつつ、自らの競技生活を振り返る。
「私は常々「自分はやり投げのプロだ」と自任しているのだが、記録を意識する点では、やはりアマチュアなのだ。世界記録さえ出せば、体はどうなってもいいと考えているからだ。これはアマチュアの考え方で、プロではない。
 プロは良い記録を、長く出す必要がある。例えば日本選手権の10連覇や、オリンピック入賞となれば、スポンサーとなってくれている企業が生活を保障してくれるかもしれないし、どこかの大学から指導者として声がかかるかもしれない。
 しかし、私にとって、そんなことは眼中にない。
 そんな生活の試算などしていたら、日本人がやり投げで世界記録を出すことはできない。」
「世界記録はもちろん最大の目標ではあった。しかしそれ以上に、私はそこに至る過程を大事にしたかった。
 ここまでドーピングなしで地獄のようなトレーニングに耐えてきたのだ。それを「ドーピングしたからだ」と一蹴して片づけられたくない。」
 
 地獄のようなトレーニングの一方で、タバコは吸っていたので、ストイックだったとは言い難い。しかし、それも本人の弁によるとこうだ。
「タバコも1日2箱は吸っていた。タバコはリラックスするために吸うので、試合の前には必ず2、3本は吸っていた。」
「また「タバコは健康に悪い」と言う人がいるが、どう考えてもやり投げの方が体に悪い。一生健康でいたいのなら、やり投げをやめた方がよほど健康的だ。」
 
 酒も飲むし、グルーピーみたいなのをホテルの部屋に入れるのも、試合前日では困るが試合後なら遠慮はいらない、とか言ってしまう。
 なんていうか、実写版ゴルゴ13を撮るなら室伏広治とかいう意見は見かけるが、溝口はリアルにゴルゴ13チックなんだよね(アマチュアは相手にしないことにしていた、とか)。
 

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高スポ執筆者

  • 荒木又三郎
    高スポ創刊者にして主筆。ACミランを愛する後天性フランス人。高スポ編集雑記に本音をぶちまける。
  • 三鷹牛蔵
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